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呼んだところで、苗字ではなくて名前を呼んでほしいと言われてしまったので話が止まってしまったけれど、本当は浅緋は片倉に伝えたいことがあった。
「あの、私……こんなのでいいんでしょうか?」
「こんなの?」
「お食事の用意も、その……朝しかしていないですし、それも一緒にですし、ここはお洗濯もお掃除もほとんどやっていただいてしまうので、私は……」
「そういうことにしましょうという話をしませんでしたか?」
「そうなんですけど……。あまりにもお役に立てていない気がして」
段々話しながら、浅緋は俯いてしまった。
確かに会社で仕事はしているけれど、それもあまり役に立っているとは思えないし、今自宅にいてもやはり片倉の役に立っているとは思えなくて、こんなことでいいのだろうか、と思えてきてしまったのだ。
「役に立ちたいですか?」
「はい!」
返事をして顔を上げると、いつものように片倉が優しく笑っている。
そして、浅緋の手を取り、きゅっと握った。
浅緋はとてもドキドキしてきてしまう。
片倉の手は浅緋の手よりずっと大きくて、きゅっと握られたら、全部包み込まれてしまうみたいで、それが照れくさいのだけれど、嬉しいから。
「浅緋さんがいてくださるだけで、僕はいいんですけど。今日は名前で呼んでくださいましたし、こうして、手も繋いでしまいましたね。それで充分ですけど、もっと?」
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