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「いいえ。何も。何も心配なことなんてありません。」
浅緋はそう答えたのだった。
その日の日中も浅緋は簡単な業務だけを与えられて、相変わらず槙野からはシャットダウンされている。
だから、最近落ち込んでいる浅緋を見かねたのか、同僚が夕食に誘ってくれたのだ。
片倉は浅緋の帰りが遅くなると、おそらく心配するだろうと思い、浅緋は電話をすることにした。
そう言えば、電話をかけるのは初めてだ。
そんなことですら、緊張してしまう。
数回のコール音の後、片倉は割と早くに電話に出てくれた。
『どうしました?』
いつも穏やかなその声はとても浅緋を安心させるものだ。
「今日は、お友達がお夕飯に誘ってくださったんです。あの、帰りに食事をしていってもいいですか?」
『ああ、もちろんです。では外で食べてくるということですね?』
「はい」
『分かりました。気を付けて。あまりにも遅くなるようなら連絡してください。お迎えに行きます』
「……っ。大丈夫です、たぶん」
片倉は浅緋を甘やかしすぎだと思う。
『心配なんですよ。だから連絡して、ね?』
優しく首を傾げている片倉のその様子が想像できてしまって、浅緋は電話をしながらでも顔が熱くなってきてしまった。
その様子を見つめる目があることに、浅緋は気付いていなかった。
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