4.黒い大型犬

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「いいえ。何も。何も心配なことなんてありません。」 浅緋はそう答えたのだった。 その日の日中も浅緋は簡単な業務だけを与えられて、相変わらず槙野からはシャットダウンされている。 だから、最近落ち込んでいる浅緋を見かねたのか、同僚が夕食に誘ってくれたのだ。 片倉は浅緋の帰りが遅くなると、おそらく心配するだろうと思い、浅緋は電話をすることにした。 そう言えば、電話をかけるのは初めてだ。 そんなことですら、緊張してしまう。 数回のコール音の後、片倉は割と早くに電話に出てくれた。 『どうしました?』 いつも穏やかなその声はとても浅緋を安心させるものだ。 「今日は、お友達がお夕飯に誘ってくださったんです。あの、帰りに食事をしていってもいいですか?」 『ああ、もちろんです。では外で食べてくるということですね?』 「はい」 『分かりました。気を付けて。あまりにも遅くなるようなら連絡してください。お迎えに行きます』 「……っ。大丈夫です、たぶん」 片倉は浅緋を甘やかしすぎだと思う。 『心配なんですよ。だから連絡して、ね?』 優しく首を傾げている片倉のその様子が想像できてしまって、浅緋は電話をしながらでも顔が熱くなってきてしまった。 その様子を見つめる目があることに、浅緋は気付いていなかった。
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