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「そうだな。だから、こんなところで男と飯なんか食ってるわけにはいかないんだな」
浅緋の頭の上から降ってきた不機嫌な声の持ち主は、槙野だった。
「社長!」
その場にいた女性達がはしゃぐ。
槙野は外向けの笑顔を向けた。
キリリとしていて整った顔も、品の良いスーツ姿も女性がはしゃぐのには十分な姿だった。
「ご存知の通り大事なお姫様だからね、連れて帰ってもいいかな?」
ここは奢るからさと槙野は店員を呼んで、皆にはにっこりと魅力的に笑う。
その場の女性達の目がハートになった。
「いいんですかぁ?」
「もちろん。大事な社員だからね。園村さんは連れて帰るけれど、皆は楽しんで」
浅緋は槙野にやや強引に肩を抱かれて、その場を後にする。
「園村さんっ!ごめんね、考えなしで」
池田が顔の前でごめんねっ!と合掌している。
浅緋はそれに向かって、なんとか笑顔を返したのだった。
「いえ!こちらこそ、ごめんなさい」
個室を出た後、浅緋はそっと槙野から距離を置く。
槙野はむっとしたようだった。
「なんだ、その態度は」
「あの……私、ごめんなさい」
「何に対してのごめんなさい?今の失礼な態度?それとも、よもやと思って店を探させたら、男を侍らせていた件?」
槙野の冷ややかな声が、レストランのエントランスに静かに響く。
「っ……侍らせてなんて、ないです。私も知らなかった……っ」
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