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槙野は腕を組んで浅緋を睥睨していて、とても怒っている雰囲気を感じる。
「あなたは自分の立場が分かっているのか?」
「立場って……」
何の役にも立たない、ということだろうか。
それならば浅緋は痛いほどに承知しているし、今も槙野をこんなにも怒らせている。
「どれほど守られているのか、分かっているのかってことだよ」
「えっ?」
守られている、とは何のことだろうか。
「園村前社長はああいう輩にあなたを触れさせないよう、近付けないよう、自分の側に置いてた。片倉もあなたの仕事をしたいという意見を尊重して俺の側に置いた。俺は片倉の信用を裏切ることは出来ないからな」
そんな意図があったとは、浅緋は全く知らなかった。
「俺はあなたが人見知りすると聞いていたから、あまり近づかないようにしていたんだ。」
「近……づかない?」
「苦手なんだろう?特に男が」
見透かされていた。
こくん、と浅緋は頷く。
「片倉は知ってたよ。だから気をつけろと言われていたし、……俺は……、あなたを怖がらせるなと散々言われて……」
はぁ……とため息が槙野から聞こえてきた。
「怖がってただろ?」
確かにその通りなのだが、こんな風にしている槙野はいつもなら狼のようなのに、今は尻尾を垂れた犬のようだ。
黒いおっきな犬のようだわ……。
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