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公園のベンチから立ち上がり、ふらりと歩き出す。どこか行く当てがあったわけじゃない。ただ、しばらくこうして歩いていよう。気が向くままに。
少しこの世界をヒトとして味わい残しておこう。と思った。むき出しの青空を眺める。道路から音がする。この音はでもどうでもいい。ただひたすらに、足が動いている。
意識がふと戻る。知っている道だったが、結構遠くまで来ていたようだ。空がほのかなオレンジを見せ始めていた。だんだん空と僕が同期していく。僕には気持ちいい満足があった。だから心臓もなくことないのに、、、。
あの公園の前まで来た。公園と歩道を隔てる横断歩道の前に小さい男の子が立っている。ぼくは、その信号を待ってぼーっと突っ立っていた。
ボタンの前に、男の子、小学生かな。顔をよく確認する余裕はなかった。僕はボタンを押そうとした。そうしたらその子、「もうボタンは押しましたよ。」と丁寧に言って僕を制した。
「あ、そうですか。」と僕は笑顔で返した。残された力を振り絞って。でも、顔は疲れて痙攣をおこしていた。もう僕は、「ヒト」であるぼくは、崩れ始めていた。顔という分厚い仮面から、体液がじわりと染み出してくる。ああ、もう疲れた、、、。視線の先には、夕暮れにきらめく麗らかな木々、そして、その隙間からは湖が夕日の光を反射して綺麗だ。
やっと、終われるのだ。この横断歩道の先に救いがあるのだ。僕は満たされる思いだった。
、、、だが、いつまで経っても、信号は青にならなかった。先程までの澄んだ心が、黒々とした苛立ちに侵食されるのを感じ、勢いで赤の信号を渡ろうとしたとき、服を引っ張られる感覚を覚えた。振り返ると、さっきの男の子だった。真面目そうな顔をして、何を考えているのか、さっぱり分からない。
、、、やめてくれ。苛立ちに任せてこの手を振り払うことなど造作もないはずだ。
そう思いつつ、私は、非力な彼を振り払うことができなかった。
、、、とくんとくんと心臓の音が聞こえる。
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