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マルコマンニ族こそ、マロブドゥスのような族長を持ったことは幸運であったろう。
胸中をよぎった思いを、ティベリウスはとっさに言葉にしそびれた。
レーヌス沿岸からのこの地へ移住した一族を束ね、軍事力を編成し、今、ローマとの協定を結ぶ―――マロブドゥスは一族の運命を背負い、一つ一つ決断を下してきた。
抵抗がなかったはずはない。今回のこととて、マロブドゥスが自身の口で吐露したように、一度ならず二度までも自分たちを攻撃しようとした侵略者ローマへの怒りは、この族長の中にも当然のように存在している。ダルマティアとの共闘を望む者たちも多くあったであろうことも、容易に想像がつく。それでも、彼は一族の運命をローマに賭けると決めたのだ。
マロブドゥスは握っていた手を離し、ティベリウスの身体を片手で軽く抱いた。二度、手のひらで背を叩く。
「………責めてすまなかった」
低い声が言う。
「いや、全て君の言う通りだ」
ティベリウスは答えた。族長は身体を離し、ティベリウスを見つめる。
「君のせいではないのは承知している。だが、我々の気持ちも察してくれ。一度は戦って敗れ、故地を去った我々だ。
これ以上、一族を流浪の民にはしたくない。我がマルコマンニ族を信頼して傘下に入った者たちへの責任もある。
ローマが我々を攻撃するなら、我々は武器を取る。たとえその戦いに未来がないとしてもだ。我が一族にも誇りがある」
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