すくわれたおおかみのはなし。

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 彼は体も大きいし、身体能力も高い。年齢も僕より上なのは確実だろう。北のオオカミのコミュニティでも、そこまで地位が低かったとは思えない。そして、他の仲間と獲物を争って負けるようにも見えない。  にも関わらず、彼の全身には複数のオオカミの牙や爪があった。そして、彼がウサギの僕を目の前にしても、他の草食動物が家を訪ねてきても反応しない理由。  恐らく彼は、オオカミのコミュニティの掟を破って群れを追われたのだ。恐らく、草食動物を食べないとでも宣言したのだろう。 「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか。どうして、草食動物を食べないことにしたのです?」  義理堅い性格、というのも嘘ではないのだろうが。それだけで、命を削るほど食事を絶つのはわからない。僕が尋ねると、彼は。 「……笑うなよ。……草食動物に、友達ができたんだ。北の森に住む、子ヤギの友達だ。一度そいつを友達だと思ったら、そいつもそいつの仲間も食べ物だと見られなくなっちまったってだけだ」 「ヤギ、ですか」 「ああ。……まあ、俺のせいで結局そいつ、死んじまったんだけどな。北の森の奥でこっそりそのガキと会ってたら……仲間のオオカミがそれを見ててな。家に帰るガキの後をつけられて、家を突き止められて……子ヤギの一家は全員、そのオオカミに食い殺されたってわけだ。で、その食い殺したオオカミを俺が殺した。仲間殺しは大罪だ……たとえ、それが群れの長だったとしてもな」  ははっ、と彼は乾いた声で嗤う。心の底から後悔し、苦悩を噛み締めても噛み締めても自分が赦せずにいるというような――そんな悲しい声だった。  ああ、やはり彼は地位の高いオオカミだったのだ。  それも群れの長ともなると、伯父たちが警戒するのも当然だろう。 「俺と友達にならなきゃ、ガキは殺されなかった。全部俺のせいだ。何で、ヤギなんかと友達になれると思っちまったんだろうな。しかも……怒りに我を忘れて、復讐にかられて仲間を殺して……同じオオカミ仲間のことも裏切った。群れの長としての責務を果たし、きっちり喰うもん喰って子孫を残すなら許してやると言われたのにそれも拒否って……このザマってなわけだ」 「サイラスさん……」
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