すくわれたおおかみのはなし。

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「誰も信じられなくなって、ずっと一人でいました。……そんな僕のことを、ただの恩人として……一時の仲間として扱ってくれたのは、サイラスさんが初めてだったんです。おかげで僕は、この数日間本当に幸せでした」  朝起きた時、人の気配がある。  ただいま、と帰った時出迎えてくれる誰かがいる。  そして、今――こうして抱きしめさせてくれる、ぬくもりがある。 「だから、本当は。この幸せな気持ちのまま、あなたに食い殺されたかった」 「ヴィンセント……」 「同時に。……僕は、今日が終わっても、あなたに死んでほしくない。だって、あなたは子ヤギの友達のために、同じ草食動物を食べない誓いを立てているみたいですけど……その草食動物にだっていろんな奴らがいるんです。僕の家族を売って生き延びるようなことをして、平気なツラして僕の世話を焼くような連中もいる。オオカミだって、あなたみたいに僕みたいなちっぽけなウサギを大事にしてくれる人だっている。……生き残るべきは、あなたみたいな存在です。そのために、手段を選んで苦しんで欲しくはありません」  サイラスの目が、動揺に揺れるのがわかった。僕が何を言わんとしているのか、彼は気づいたのだろう。  この南の森にいるオオカミは、ごく僅か。  反面草食動物は膨大なほど存在している。村一つ消えたところで、生態系に大きな影響が出るはずもない。 「……俺は、北の森を追い出された。南の森に仲間はいない。帰るところなんか、どこにもない。……お前が死んじまったら、そうなるんだが?」 「だったら、答えは決まりですよね」  僕は彼から離れて、にっこりと笑った。 「僕の家で、ずっと一緒に暮らせばいいのです。大丈夫、村の人たちが誰もいなくなれば……もう、あなたを脅かすものは何もありません。安心してください、村の誰が猟銃を持っていて誰が格闘能力が高くて、どこに罠があるのか。僕は全部知っていますよ」  裏切り者は誰?  悪いのは誰?  こんな真似をする自分を、神様とやらは許してくれないのだろうか。 ――それでもいい。 「あなたとだったら、僕はこの世界で生きていける」  そんなのはもう関係ない。  ただ、あなたがそばにいてくれたなら、それでいい。
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