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第16話 あなたのものになりたい【柏木】
柏木と草薙の、微笑ましい高校生らしい交際は、順調に続いていた。昼休みに待ち合わせて一緒にお弁当を食べたり、部活を引退した柏木がたまに練習に顔を出したり、柏木が図書館で勉強して草薙の部活が終わるのを待ち、一緒に帰りながらおしゃべりをしたり。
時折は、人目を盗んで音楽室や部室で唇を重ねることもあった。この日も、部活が終わった後の音楽室で二人は甘い口付けを交わしていた。うぶで恥ずかしがり屋なところが可愛いのだが、最近は物言いたげな眼差しで、草薙の方から控え目にキスをねだってくることもある。そんな恋人の成長が、柏木は嬉しくて仕方ない。
この日の恋人は、今までになく大胆に迫って来た。両腕を柏木の首に絡め、がっちり頭をホールドすると、自分から舌を入れて、ねっとりと絡めて来た。少し驚きつつ腰を抱いてキスを返すと、草薙は自分の下半身を、ぐいぐいと擦り付けてきた。
「お……、おい、菫。今日は、すげぇ積極的だな」
恋人が自分を激しく求めてくれるのは嬉しいが、奥手な彼を慮って自分をいつも制御している柏木としては、彼を恣にして怖がられたり嫌われたりしないかが心配だ。彼の真意を知りたい。荒い呼吸のまま唇を離した草薙の潤んだ瞳を見つめながら、いったん身体を引いた。
「キスだけじゃ足りない? もっと欲しいの?」
「僕を……全部、圭先輩のものにしてください。抱いてほしいんです」
濡れた瞳で囁かれ、その細い指先で頬を優しく撫でられた上に、とどめの刺激的な台詞は、柏木の下半身を直撃した。しかし大胆な言動とは裏腹に、草薙の唇が細かく震えているのが気になった。
「菫が俺を求めてくれるのは嬉しいよ。俺も菫が欲しい。でも、菫さっきから震えてる。これ以上進むの、まだ少し怖いんじゃないか?」
恋人のプライドを傷付けないよう気を遣いながら、柏木は優しく言った。
「こ、怖くなんかっ……! 圭先輩は、過去の恋人と、してるんでしょ? 僕だけ先輩と繋がれないなんて嫌です。僕だって先輩が全部欲しい……!」
自分の過去の恋人にまで嫉妬し、全身でぶつかってきてくれた草薙が愛おしく、柏木の胸は詰まった。しかし、柏木が感動で言葉を失ったとはいえ無言だったことで、自分に自信のない草薙は誤解した。
「……それとも、僕なんか抱く気にならないですか……?」
草薙は、今にも泣き出しそうに眉を八の字に下げ、長い睫毛にびっしりと涙を纏わせている。柏木は堪え切れず、噛み付くように草薙の唇を奪った。
「そんなこと、あるわけないだろ……! 俺だって菫が全部欲しいよ。でも、それ以上に、お前の気持ちを大事にしたい。自然とそうなりたいって思えるようになるまで、菫と俺なりのペースで進めばいいと思ってる。
それに、全部って言うけどさ……、男同士ってけっこう大変なんだよ。特に初めての時は。だから、こんなとこで俺を煽らないでくれよ……。菫にそんな色っぽく迫られたら、俺、マジで理性の限界」
荒い呼吸の合間に、切なげな表情で困ったように草薙に微笑みかけた。
「焼きもち焼いてくれたのも、愛されてる感じがして嬉しかった。けど、俺が好きなのは菫だけだからね。信じて?」
甘く囁き、乱れた前髪を優しく梳き、まだ涙が滲んでいる睫毛を始め、草薙の顔中にキスした。柏木の気持ちが通じて、切羽詰まった表情が和らぎ、草薙は優しい眼差しに戻った。そして無言のまま、ぎゅっと柏木の背に腕を回して抱き付いた。
「……」
身体が密着すると、柏木の中心が主張していることが伝わる。戸惑い気味に俯く草薙に、柏木は照れ笑いした。
「さっきの『抱いて』が効いたよ」
きゅっと唇を噛み締めると、草薙は右手を柏木の下半身に伸ばした。恋人の柔らかい手で優しくスラックスの上から触れられ、柏木は呻いた。
「ちょ……、菫、ダメだよ……」
「でも、このままじゃ苦しいでしょ……? 挿れるのは無理でも、手とか口で、していいですか……?」
跪いて上目遣いで見上げ、さっそく柏木のベルトを外そうとしている草薙の姿に、ご奉仕の図を連想し、柏木はますます猛った。スラックスの前を寛げて下着をずらし、柏木自身を手に取って、まじまじ見つめている草薙は、まるで無邪気な子どもみたいだ。そんな草薙に欲情して、いやらしいことをさせようとしている背徳感で昂る。
優しく先端に触れてから、カリと竿の境目の部分をゆるゆると撫でる。それから、掌で竿全体を包み込み、上下に手を動かしていく。
「ねぇ……、菫が自分でする時も、そんな風にしてるの……?」
溜め息交じりに柏木が囁くと、草薙が頬を赤らめ、軽く睨むように見上げてきた。そして無言のまま、ぱくっと先端を咥えた。
「ああっ」
柏木は、その喉を仰け反らせ声を上げた。舌をゆるゆると絡め、裏筋に沿って舐め上げる。その舌技はぎこちなかったが、奥手な恋人が頬を染め、自分のものを口で愛撫してくれている。その視覚的な刺激で、柏木は興奮した。
(……気持ち良い……けど、これじゃイかなそうだなぁ。でも、止めて良いよ、なんて言ったら、「やっぱり僕の技術じゃ……」って、絶対落ち込むよなぁ……)
柏木は暫し逡巡した。
「菫。手、貸して」
草薙に自分自身を握らせると、その上から自分の手を重ねて、力強く一気に扱いた。
「ん……、もうイきそう。菫、離して……」
柏木が喘いだが、草薙は、ふるふると頭を左右に振り、一向に柏木を口から離そうとしない。
「ダメだよ……、もう出ちゃう……」
切ない声をあげた直後、愛しい人の口の中で柏木は果てた。
「僕で、気持ちよくなってくれましたか……?」
飲み干しきれなかった白濁を唇の端から垂らしながら、眦を染めて尋ねてくる草薙は、これまでとは違う色気を放っている。
「ああ……。すっかり翻弄された。すげぇ気持ちよかった」
大きく息をつきながら、柏木は答えた。
フフフと色っぽく含み笑いしながら柏木の服を直し、跪いた姿勢から立ち上がった草薙の中心に、今度は柏木が手を伸ばした。
「え、えっ?!」
「今度は、俺がしてあげる」
困惑する草薙に、唇の片端を釣り上げ、ニヤリと思わせぶりな笑みを浮かべた柏木が、抵抗する間も与えず、草薙自身を掴んだ。あっという間に、そこに熱が集まった。
「や、やあっ」
「菫だけずるい。俺にもさせてよ」
手で必死にそこを隠そうとした草薙に、拗ねたように柏木が抗議すると、草薙は恥じらいながらも自分の身体を恋人に委ねた。
恥ずかしがり屋の草薙自身を外に引っ張り出すと、その控え目な主張の張りつめた先端に滲み始めた液体を指に纏わせ、鈴口を撫でる。溝や小さな窪みまで優しく丁寧に。草薙は、最初こそ必死に声を堪えていたが、敏感なところに触れられると、身体を捩ってよがり、甘い声を上げ、次第に快感に素直に身を任せるようになった。草薙の蕩けるような表情や妖艶な姿態に刺激され、柏木の若い身体は再び反応した。我慢しきれず、自分自身を取り出すと、草薙のものと擦り合わせ、二本纏めて扱いた。
「一緒にイこう」
二人は、その若い熱情を激しく迸らせた。
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