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第17話 もっと近くに (1/2)【柏木】
「おう。いらっしゃい」
ブルーのデニムに黒いジップアップパーカーというカジュアルな服装の柏木が、ドアを開けて顔を出した。
「お邪魔します」
草薙は、はにかみながら軽く頭を下げ、玄関に靴を脱いだ。
これまでも、部活の相談や勉強等の口実で、柏木は自宅に何度か草薙を招いていた。しかし、今日は二人の仲を更に前に進めるため、柏木の両親が泊りがけで出掛けて不在の週末に、わざわざお泊りに来てもらったのだ。草薙の頬が染まっているのは、外が寒いからだけではなかった。草薙が脱いだダウンジャケットを受け取りながら、柏木はニヤリと笑いながら冗談ぽく言った。
「菫、もしかして今エロいこと考えてる?」
「……そりゃ、緊張してますから。圭先輩は慣れてるでしょうけど、僕、初めてなんですからね」
草薙は、わざと少しオーバーに拗ねて見せた。
「んんー。分かってるよ、可愛いなぁ。大丈夫、優しくする。絶対、菫が嫌がることとか痛いことはしない」
柏木は、草薙を背後から抱きすくめ、頬をスリスリとくっ付け甘い声で囁いた。恥ずかしがり屋の恋人の初体験を少しでも良いものにしてあげたいと、柏木は秘かに意気込んでいた。
「喉、乾いてない? なんか飲む?」
「ううん」
「こないだのゲームの続きする?」
「ううん。たぶん僕ぼうっとして、それどころじゃないと思う」
「じゃ、シャワー、一緒に浴びよっか」
「……」
耳元で囁いたら、草薙の頬は更に一段熱くなった。返事をためらっている様子だったので、くるりと自分の腕の中で、身体の向きを反対に変え向き合った。
「菫と一緒に風呂入るの、去年の合宿以来だな」
柏木が微笑むと、
「あ、あれは……、一緒に入ったうちに入るのかな」
照れ隠しに、少しぶっきらぼうに草薙が答える。
「俺はあの時もう菫のこと好きだったから、すげぇ意識してたよ。実はガン見してた。背中流した時に肌に触ったのも、あれ、わざとだから」
柏木は打ち明けた。
「えーーーっ! 僕も圭先輩のこと意識してたけど、なるべく見ないようにしてた。色気がすごすぎて、まともに見たら当てられそうだった」
草薙も、思わず正直に打ち明けた。
「……菫も俺のこと意識してくれてたんだね。嬉しい」
柏木は小さく音を立てて、草薙の頬にキスを落とした。
「さ、行こう。色々やんなきゃいけないこともあるしさ。そこも含めて俺を頼ってよ」
柏木は優しく微笑みながら、手を差し伸べた。草薙ははにかみながらも、少し微笑んで柏木の手を取った。
脱衣場で、柏木は男らしく一気に自分の服を脱ぎ捨てた。全裸になり振り向くと、草薙はモタモタと自分のカーディガンやシャツのボタンを外している。
「ああ、もう。なんで、こんな脱がすの面倒な服、こういう日に着てくるの? 俺への焦らしプレイ?」
軽口をききながら、既にボタンが殆ど外れていた草薙の服を、上から引っ張って一気に脱がせる。
「だ、だって。どんな服が脱がせやすいかなんて、分かんないもん!」
頬を染め上目遣いで、自分の上半身を女の子のように隠す草薙の姿に、
(かっ、
かーーわーーいーーいーー!!!!)
内心萌え滾った柏木だが、あくまで「初エッチで恥じらっている彼女の服を優しく脱がせてあげる彼氏」の顔を崩さず、草薙のベルトを外しジッパーを下ろし、デニムと下着を纏めて下ろして脱がせた。
(こういう時って、頭は洗うもの?身体は自分で洗うの?)
草薙はまごついた様子だったが、柏木が平然とガシガシと自分の頭を洗いだしたのを見て、その隣で、おずおずと自分も頭を洗い始めた。
「ん、ほら、」
草薙が頭を洗い終わったのを見るや、シャワーで上からお湯をかけた。
「せっかくだから、身体は洗いっこしよう? まず、菫が俺を洗って?」
柏木は首をコテンと横に傾け、ボディソープを付けたタオルを草薙に差し出した。草薙は少し困ったように軽く眉をしかめ、唇を噛んで内側に仕舞い込んだが、素直にタオルを受け取り、無言でタオルを揉んで石鹸を泡立て始めた。
少しずつ互いの肌に触れ合って羞恥心を和らげ、徐々にセクシーな気分になってもらうのが目的なので、この段階では自分の下半身まで触ってもらう必要はない。柏木は自分の手にもボディソープを取り、自分の股間を洗い出した。草薙はその様子を見て、柏木の首筋や背中を洗い始めた。
楽屋や合宿で着替える時など、草薙がこっそり自分の身体を盗み見ていることに柏木は気付いていた。だから、直接見て触れてドキドキしてほしい。柏木の計算通り、優しくタオルを柏木の肌に滑らせる草薙の手や指の動きは、控え目ではあるが柏木への愛撫そのものだった。背中から腰にかけての広背筋。二の腕の三角筋や上腕二頭筋。盛り上がった胸筋、シャープな腰回りの腹斜筋。草薙の目が次第にうっとりし始め、そこにほのかに情欲の炎がともる。恥ずかしがり屋の恋人の、羞恥心の最初の一枚を剥ぎ取ったことを見て取った柏木は小さくほくそ笑んだ。
「じゃあ次は、菫を洗ってあげる」
最初は素直に洗われていた草薙だが、乳首や脇腹といった微妙なところに触れると、悶えるようにその身をよじらせる。
「あ、あ。ねぇ、ちょ、ちょっと!」
「ふふん。これまでの付き合いで、俺、菫の弱いとこ、けっこう知ってるからね」
柏木は少し悪戯っぽく笑った。
「だけどさ、もうちょっと色っぽい声出してほしいな。その方が、お互い興奮して、もっと気持ちよくなるからさ。……っていうか、俺、菫に気持ちよくなってもらいたい」
真顔に戻り、草薙を見つめた。
「……ちゃんと感じてる。もう、勃っちゃった」
草薙は照れたように俯きながら言った。
「ありがと、正直に教えてくれて。菫に感じてほしくて色々してるから、嬉しい」
二人は改めて正面から向き合った。柏木は、草薙の後頭部に手を当ててホールドし、
「菫、好きだ」
少し掠れた声で囁き、噛み付くように口付けた。草薙が荒い呼吸の中で自ら積極的に舌を絡めて来たのを感じ取り、柏木は、草薙の背中を指先でくすぐるように、艶めかしく撫で回した。
「はぁ……っ、あんっ」
夢見るような潤んだ瞳で、草薙は柏木にしがみ付き甘い溜め息をこぼした。
機は熟した。恋人の頬やこめかみに小さいキスを幾つも落としながら、柏木は手を草薙の後ろに伸ばし、しなやかな双丘を押し開いた。
草薙は身体をピクリとこわばらせる。
「大丈夫。俺を信じて任せて。中を洗う前に、少し解しておこう」
柏木は優しく語り掛けながら、ボディソープを纏った指を忍び込ませ、まだ固く身を竦めている初々しい蕾を周辺から優しくマッサージした。少しでもリラックスできるように、草薙が好きな、優しく唇を食むキスを繰り返すと、再び甘い溜め息をつき表情が緩んだ。すると、恥じらっていた蕾がふわりと開くように、そこは柏木の指を受け入れた。
草薙は恥ずかしそうに俯きながらも、甘えるように自分の顔を柏木の肩に擦り付けた。
その様子から痛みや抵抗感はないようだ。柏木は慎重に指を中まで差し入れた。緊張で固くなっているかと思いきや、意外とすんなり入っていく。中で指を回すと、思っていたより柔らかい。これなら思っていたほど時間はかからないかもしれない。
舌と舌を絡めるキスをしながら、呼吸の合間に「指、もう一本入れるね」と囁き、草薙が頷くのを確認してから、中に入れる指を追加した。草薙の表情に艶っぽさが増してきた。ちゃんと感じている証拠に、控え目ではあるが喘ぎ声を我慢しなくなった。苦痛や不快感がないか、表情や身体の反応に気を付けながら、内側を広げるように二本の指をゆっくり動かす。
それにしても、初体験のはずの草薙の身体が、こうもスムーズに開くものか。
「菫、もしかして、自分でしてた?」
うぶな恋人は頬を染めて、きゅっと唇を噛み締め、恥ずかしそうに頷いた。
「どんな感じか知りたかったし。圭先輩に頼りっ切りも、主体性ないかなぁと思って」
「そうだったんだ。いい感じだよ、柔らかい。」
柏木は御褒美のように色っぽく微笑んだ。シャワーヘッドを双丘の間にあて、草薙の内側にお湯を送り込み、吐き出させることを何度か繰り返した。
二人は浴室を出ると、慌ただしくそれぞれの髪や身体を拭くと、全裸のまま柏木の寝室に駆け込んだ。抱き合い、唇を貪り合い、二人はベッドに縺れ込んだ。
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