第18話 もっと近くに (2/2)【柏木】

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第18話 もっと近くに (2/2)【柏木】

「綺麗だ」  思わず柏木(かしわぎ)の口から零れ落ちた。一年前の草薙(くさなぎ)は体躯も手足も細くて少年そのものだったが、今、目の前で一糸纏わずベッドに肢体を投げ出している彼は、少年と大人の境目で揺蕩っているようだ。その尊さに柏木の胸は熱く震えた。 「せんぱい……、」  少し舌足らずな甘えるような声で、草薙は訴えた。 「すき」 「俺も好きだよ……」  耳や首筋、そして胸元と、草薙が感じやすいところを狙って口付ける。 「は、ああ、やあぁっ」  快感に翻弄され出した草薙が少しずつ恥じらいを脱ぎ捨て、声を上げて色っぽく喘ぎ始めた。 「もっと素直になって。生き物の本能だから」  自らも雄の本能を出し始めた柏木の目線は、既に匂い立つような男の色気を放っている。 「んん、んっ、ああっ!」  淡く色付く小さな乳首を摘まみ、ねぶり、吸い上げると、生まれて初めて与えられた強い快感に、草薙の肢体は若い魚のように跳ね上がった。その中心は既に十分すぎるほどの熱を溜め込み、更なる刺激をねだるかのように先端は濡れていた。予想以上に早いペースで草薙が快楽の階段をのぼりつめていく様子に、柏木は驚きと共に感動すら覚えた。草薙の素直な感受性と、柏木と繋がりたいという強い気持ちが成せるわざだとすれば、自分の恋人は、なんて健気なんだろう。 「(すみれ)のここ、もう、こんなになってる。感じてくれて嬉しい」  育ち盛りの植物のように勢い良く立ち上がった草薙の茎を掴み、少しずつスピードや強さを上げながら扱く。先端からは次々に滴が溢れてきて、柏木の手は既にしっとりと濡れている。茎に脈が浮き出るくらい屹立したところで、敏感な先端に刺激を与える。優しく指の腹で鈴口に触れられ、草薙は甘く呻いた。  柏木は、そのまま先端全体を包み込むように草薙自身を口に含んだ。唇と舌で愛撫しながら、手で茎を上下に扱いた。 「あっ、あ、だ、だめ、」  草薙が慌て出した。 「いく?」  草薙自身を口に含んだまま、顔や体の動きを観察する。 「もうだめ、……っ、あああ、いく、いく」  草薙はぴくぴくと身体を震わせ、精を柏木の口内に吐き出した。 「気持ちよくなってくれた……?」  額と頬にキスを落とし、柏木は甘く囁いた。  くったりと身体を投げ出し、息を乱して、泣きそうな表情を浮かべている草薙が頷いた。 「……あまりに気持ちよくて、びっくりしちゃった。僕、すごい声出しちゃった」 「それだけ、俺を信じて心と身体を開いてくれたんだって、俺は感動してた」  柏木の瞳も潤んでいた。僅かに眉間に皺を寄せ泣きそうだった。  体重をかけまいと両肘と両膝を立てていた柏木の首に、恋人の腕が回され、ゆっくり頭を引き寄せられた。草薙が自分の顔を僅かに傾け、角度をつけて、柏木に優しく口付けた。柏木は胸が熱くなり、キスを返しながら草薙の首に腕を回し、そのまま彼の身体ごとゴロンと横向きに転がった。  二人は少しの間、無言で見つめ合った。 「(けい)先輩。僕を抱いて。僕を、全部、あなたのものにして」  草薙は澄んだ瞳で微笑んだ。 「うん。俺に、菫を全部ちょうだい」  柏木も静かに微笑んだ。  そのまま草薙を180度転がして、背中を向けさせた。その敏感な背中を唇と舌で愛撫すると、草薙はあられもない声で喘ぎ始めた。彼の表情が蕩けてきたのを確かめると、柏木は、ベッドのすぐ横に置いておいたローションのボトルを掴んだ。たっぷり手に取り、しっかり温め、草薙の後ろに手を伸ばした。お風呂で事前に少し触れていたからか、前戯で一度のぼりつめているからか、草薙は身体をこわばらせずリラックスしたまま、柏木の指を素直に受け入れた。ゆっくりと浅く抜き差ししたり、内側を広げるように内壁を押しながら指を回した。丁寧に草薙の良いところを探していく。何度か甘く鼻にかかった声で小さく啼いたが、ある場所に触れた時、乳首を吸い上げた時と同じように、彼の身体がビクンと大きく跳ねた。 「ん……、ここ、かな……?」  柏木は一人ほくそ笑み、そこを少し強く擦りあげた。 「やぁああっ……。なに……? これ」  初めての感覚に身悶えしながら、草薙は子どもの泣き声のような嬌声をあげた。  少しの間、同じところを愛撫してから、 「菫……、指、増やすよ」  声をかけ、頷くのを確かめて二本目の指を入れる。 「どう……? 痛くない……?」 「うん。痛くはない。ちょっと、もぞもぞするけど。不思議な感じ」  二本の指で、もう少し強めに先ほど見つかった草薙の良いところを刺激する。 「ふ……ぁあああ……。ん……」  さっきよりも喘ぎ声が色っぽく、表情や身体の動きに妖艶さが出てきた。 「じゃあ、もう一本入れるね……。これが入れば、たぶん大丈夫だから」  草薙の痴態に目と耳から刺激され、とっくに柏木は臨戦態勢である。しかし、初めて他人を内部に受け入れる愛しい恋人のため、その身体に念入りに準備を施していた。三本目の指が入り奥まで進める頃には、草薙の身体はびっしょりと汗で湿っていた。まだ大人の男というよりは少年に近い、甘い体臭が強まった。 「けい……、けい……」  |譫言のように、草薙が柏木の名前を呼ぶ。痛いほど大きく張り詰めている自分自身にコンドームを被せながら、柏木は苦笑した。 (……菫のやつ。普段は大人しくて清楚なのに、エッチの時こんなにエロいなんて反則だよ……。俺、そんなに持たないかも。早く終わっちゃったらカッコ悪いなー)  うつ伏せで腰を高く上げさせ、背中から覆い被さるように、草薙の中に自分自身を埋めていった。既に滾りまくっている柏木にとっては、うねるように締め付けてくる恋人の内部に、少しずつ、ゆっくりとしか入れないのは拷問に近かったが、初体験の恋人に苦痛を与えないよう必死で耐えた。草薙だけでなく、柏木も全身汗だくになっていた。垂れた汗の雫が草薙の背中に落ちた。 「……これで全部入ったよ」  柏木は手で自分の額を拭った。おずおずと背後を振り返った草薙のキョトン顔に微笑みかけると、恥ずかしそうに微笑み返してきた。妖艶に喘ぐ姿態と、子どものように無邪気な笑顔のギャップが、更に柏木自身を滾らせる。 「少しずつ動かすね」  最初は小刻みに抜き差しし、馴染んできたら、一直線に草薙の良いところに向かって擦り付ける。 「ふっ、ぅうううう、ん、やぁあああ、ああ、んん」  草薙は苦し気にも聞こえる喘ぎ声で、シーツをぎゅっと掴んでいる。 「だいじょうぶ? つらくない? つらかったら、おしえて、」  柏木は荒い息をついて、昇りつめそうになるのを堪えていた。 「ごめ、もっと、いっぱい、してあげたいけど、おれ、もお、」  右手を草薙の前に回し、中心を掴み、抽送に合わせて扱いた。 「んんん、きもちいい、あ、あ、ぼくも、い、いきそう」  切なげな喘ぎ声をあげると同時に、強く何度も内部を収縮させながら草薙は達した。その収縮を感じて、柏木もようやく熱情を迸らせた。柏木が自分自身を草薙の蕾から引き抜き、 二人の身体の繋がっていた部分が完全に離れると、草薙の手足がぶるぶると震えた。 「生まれたての小鹿みたい」  まだ微妙に眉間に皺をよせ、少し疲れたような情事の後の気怠い気配を漂わせた柏木が、優しく恋人の背中を撫でて、いたわりながら彼の腹やシーツに飛んだ白濁や足の間に垂れたローションを拭き取った。  草薙はうつ伏せにベッドに横たわると、ちょっと恨めしそうな目を向けた。 「『少しずつ動かす』って言ったのに、すごい勢いで一気に攻めてくるから! 『あ、ちょっと慣れてきたかも』って思ったら、すぐ一番感じるところばっかりグイグイ突いてくるんだもん。もうだんだん目の前が白くなってきて、天使のお迎えが来ちゃうかと思った」  頬を染めながら口を尖らせ、可愛いことを訴える。 「ご、ごめんって。けどさ、菫だってずるいよ! 普段は清楚なのに、エッチの時、色っぽ過ぎるんだもん。しかも中に入ったら、柔らかいのにキュって締まるしさ。ホントは、もっとゆっくり色々してあげたいって思ってたんだけど、あれで俺も限界。あれ以上焦らされたら俺が一人でイッてた」  柏木も珍しく、拗ねたように口を尖らせ、いつになく幼い表情で訴えた。 「菫、そのエロい表情や身体は、他の男に見せるなよ。魅力的すぎる。非常に危険だ」  急に勿体ぶった柏木に「ぷっ」と、草薙は噴き出した。  その笑顔がいつも通り無邪気なのを見て取ると、柏木は優しい笑顔に戻り、草薙の頬を愛おしそうに撫でた。 「恥ずかしいけどさ、俺も今日、すげぇ緊張してたんだ。菫に嫌な思いさせたくなかったし、初めての相手が俺で良かったって思ってほしかった。だから菫が今、いつもみたいに笑っててくれるのが嬉しい」  乱れた髪に濡れた瞳。物言いたげに少し開いた唇。鼻の頭には、まだうっすら汗が滲んでいる。ベッドに横たわったまま、自分を見詰めてくる草薙は、おもちゃを投げて遊んでもらうのを待ち侘びる子犬みたいだ。 「僕も、圭先輩と繋がれて嬉しかった。  先輩が僕に色々してくれることも、恥ずかしかったけど嬉しかった。  色んなところをお互いに見せ合うのは、恥ずかしかったけど嬉しかった。  すごく気持ちよかった。  僕の初めてが、圭先輩で良かった」  そう言って、ふんわり微笑む草薙に、柏木は萌え滾った。 「お、お前……。なんて可愛いこと言うんだよー! もー!」  柏木は顔をくちゃくちゃにして、愛しい恋人を抱きよせ、その髪に手を差し込んでわしゃわしゃと撫で回し、その頬に自分の頬を擦り付けた。 「菫……。大好きだよ……」 「僕も、大好き……」  二人は遊び疲れた子どものように抱き合いながら眠りについた。幸せそうな笑みを浮かべる二人を、夜の帳が優しく包んだ。
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