第8話 合宿の夜 (2/2)【草薙/柏木】

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第8話 合宿の夜 (2/2)【草薙/柏木】

 意識を回復した草薙(くさなぎ)が最初に見たものは、客室の天井と、上から心配そうに覗き込んでいる同級生たちの顔だった。 「気が付いたか、(すみれ)。よかった~。心配したんだぞ! どっか、ぶつけたりしてないか? 痛いところないか?」  一番の親友・竹下(たけした)が、ほっとしたように微笑んだ。 「……あの、僕、確か、お風呂で気持ち悪くなったような気がするんだけど」 「そうだよ!! お前、風呂で倒れたんだぞ! (けい)先輩がここまで連れて来てくれたんだからな。あとでちゃんとお礼言っとけよ」 「ええっ……! 僕、その……、も、もしかしてハダカだった?!」  竹下は呆れたように草薙を眺め、ハアと溜め息をついて教えてくれた。 「お前、湯舟から出たとこで、浴室のタイルの上に倒れてたらしいぞ。たまたま圭先輩が近くにいたから、頭とか身体拭いてパンツ履かせて、背負って、ここまで連れて来てくれたんだよ。俺たちが脱衣所のTシャツとハーフパンツを回収して、お前に着せて布団に寝かした」  草薙は目を丸くし、顔を真っ赤にしてパクパクと口を開閉した。恥ずかしさに耐え切れず、両手で顔を隠した。 「恥ずかしがってる場合じゃないだろ! 頭でも打ってたら大変なことになってたんだぞ! 圭先輩がすぐに助けてくれなかったら、マッパで浴室で寝て風邪とか引いてたかもしれないし!」  至極真っ当な竹下の意見は、今の草薙の耳には届かなかった。 (よりによって圭先輩に、全てを見られてしまったなんて……。恥ずかしすぎて死にたい……)  翌朝、朝食会場に向かう途中、柏木(かしわぎ)の後ろ姿を見かけた。遅かれ早かれ御礼は言うべきだし、言うなら少しでも早い方がいい。思い切って草薙は声をかけた。 「圭先輩」  柏木が振り向いた。 「あの……、昨日は助けてくださって、ありがとうございました」  急いで言って頭を下げた。 「おぉ。身体は大丈夫か? 怪我とか、どっか調子悪いところはないか?」  軽く眉をひそめた柏木に気遣われた。 「はい。特に怪我とかはないです。あの……、色々ご迷惑をおかけして、すみませんでした」  全裸を見られ、パンツを履かされ、パンツ一枚で背負われて運ばれるという、意識があったらとても耐えられない羞恥プレイを思い出し、草薙は赤面した。 ***  身体の両脇に真っ直ぐ下ろした両手をぎゅっと握りしめ、真っ赤な顔で俯く草薙を目にして、 (かっ、 かーーわーーいーーいーー!!!!)  内心萌え滾ったが、どうにか良い先輩を装って優しい言葉をかけた。 「昨日は俺が近くに居たから、大事にならなくて良かったよ。男同士なんだし、あんま気にすんな。今日も明日も暑そうだから無理するなよ?」  柏木にとっては、昨夜は胸躍る出来事だった。  顧問との打合せを終えて大浴場に入ったとき、一心に頭をゴシゴシしているのが草薙だということに彼はすぐに気付いた。わざわざ隣に並ぶのは図々しすぎるが、あんまり遠くに離れるのも逆に変かと思い、二つほど離れた場所に座り、シャワー中でこちらに気付いていない草薙の長くほっそりした手足や薄い胴を横目で眺めた。背中を流した時は悪戯心でたまに軽く指先で触れると、あまりに草薙が敏感に反応するので、真剣に愛撫したら一体どんな表情を見せるんだろうと淫らな妄想が止まらなかった。  柏木が脱衣所を出た直後、浴室のほうからドーンと鈍く大きな音が聞こえた。急いで取って返すと、草薙がタイルの床の上に四肢をだらりと投げ出して倒れていた。呼吸や脈拍に異常がなく、目立った外傷もないことを確認するまでは気が気ではなかったが、どうやら普通の貧血らしい。そうっと彼の身体をバスタオルで包んで横抱きで脱衣所に運び、丁寧に身体や頭を拭いた。その頃には顔色も自然に戻り、柏木はようやく少し安心し、改めて草薙の裸体を眺めた。無垢で少年ぽさを色濃く残したその肢体は、柏木の劣情を猛烈に刺激した。 (へぇ……。胸や腹は、薄いとは言え思ってたよりは筋肉ついてる。一応、腹筋割れそうじゃん。肌のすべすべ感は同年代の女子が嫉妬しそうなレベルだなぁ。乳首が小さくて色が薄くて可愛い。まだキスされたことなんか、ないんだろうなぁ……。ご子息の生育状況は、まぁ年相応ってとこか。髭も薄いし、体毛少ないのに、アンダーヘアだけ猛々しく臍まで伸びてるっていうのが妙にセクシーというか。アンバランスで萌えるなぁ……。  ……って、いやいや! 俺、なんでさっきから変なことばっか考えてるんだ?!)  ニヤニヤしたかと思ったら、青ざめたり、柏木は一人百面相をしながら、慌てて草薙の下着を探し、片足ずつ通し何とか履かせた。部屋に連れていくのに再度横抱きにしようかとも思ったが、いわゆる「お姫様抱っこ」で運ばれたとあっては草薙の男の沽券に関わるだろうと考え直し、自分の背中に背負って運ぶことにしたのだった。  しなやかでほっそりした草薙の身体と肌の感触、そして温もりを背中で感じ、柏木の胸には甘やかな感情が広がった。  しかし、自分に対する草薙の気持ちは、あくまで「先輩を慕う後輩」の域を出るものではない。草薙に対する恋愛感情めいた気持ちは自分の中だけに止めておかなければいけないと、彼は自分を戒めていた。
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