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神雨、濡れ落ちて
*
あの後、龍由を刺した和弘は雷の衝撃によって気を失い、絵里は和弘に寄り添っていた。叔父に頼んで社務所で休ませた和弘と絵里は和弘の目が覚めた後、憑き物が落ちたように大人しく帰って行った。龍由の話では、彼らは鬼羅と佳那の生まれ変わりだと言うことだった。水占いでも絵里の相手は身近な人だったし、和弘の新たな出会いが運命を動かすという占いも、止まっていた鬼羅と佳那の時間がこれから動き出すのだと思えば、舞白との出会いは無駄ではなかったのだろう。
龍由は以前、魂の輪廻は全て巡りあわせなのだと言った。鬼羅の魂の輪廻、佳那の魂の輪廻、そして緋波の魂の輪廻が今この時に揃って初めて運命が回り、全ての遺恨が解決し、止まっていた時が動き出した。
雨がしとしと降っている。
神力が戻ったことで龍由の回復は目ざましいものだったが、雨を司る龍神でも傷には障るらしい。今日も神社でゆっくりしているところだった。舞白が部屋を訪れると、龍由は雨が降っている戸の外を眺めていた。
「……龍由さん……」
声を掛けると、穏やかに振り向いた龍由が、おいでおいでと手招きをする。舞白は請われるままに龍由の隣に座り、外を見た。稲の成長の季節に豊かに降る雨は、一体どれくらいぶりなのだろう。
「……あんなに雨に恵まれなかったのが嘘みたい……。やっぱり、龍由さんに力が戻ったからなの?」
あの時緋波は、龍由からもらった力を全部龍由に返せと言った。体が求めるとおりに龍由に人工呼吸の要領で力の源を返したと思っているから、それが理由ではないかと思う。
「……そうだな。二つに分かれていた神力が舞白の中で一つになり、それが私に帰った。……これからは舞白のことだけでなく、この郷にも注力しながら生きていこうと思う」
そう言って舞白のことを抱き寄せてくれる。龍神伝説は、龍由が緋波を想う気持ちが伝説化したものだったのだろう。そう思うと、緋波に寄せた龍由の気持ちを疎かに出来なかった。緋波はあの後、龍由を想いながら、人生を過ごしたのだろうから。
それに、と思う。
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