90人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
昔から時々見る悪夢。
鬼のような形相の男の人が、私に向かって牙を剥き、次の瞬間、喉に言いようのない痛みが走る夢。
真っ赤に染まった視界の中で、その男の人を私から遠ざけて涙ながらに私を見る、もうひとりの男の人。
どくんどくんと心臓が拍動するたびに喉から血が流れ出て、焼けそうに熱い。
「――――!」
意識が消えそうになった時に、私を呼ぶ声がする。
そして私の体は、ふうっとあたたかいもので包まれて、あとは桜の花びらのようなものが空へと巻き上がっていく様子。
まるで自分の死に際を見るようなそんな悪夢を、子供の頃から何度となく夢に見て、今日も飛び起きた。
はあはあと肩で息をしながら、暗闇の中、目を閉じる。今日が、何事もなく平和に終わりますようにと、祈りを込めて――。
最初のコメントを投稿しよう!