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和弘は手にナイフを取り出した。さっと龍由が舞白を背後に庇い、前に出る。絵里が叫んで和弘の腕を引くが、振り払われてしまう。
「絵里、邪魔するな!」
「カズくん!」
「おぬしはまた人を殺めるのか? それを緋波が喜ぶと思うのか?」
「お前が居るから何時までも俺は彼女を手に入れられない……っ! お前なんか居なければいいんだっ!!」
冷静な龍由の言葉に逆上した和弘がそう叫んで、龍由に向かった。龍由が舞白を手で後ろへ半ば突き飛ばすような形で追いやる。和弘の突き出したナイフは身を翻した龍由の体と腕の間をすり抜け、龍由が体を反転させる。
勢いあまってナイフを持ったまま砂利の上に手を付いた和弘は再び起き上がり、龍由に対峙した。ギラギラと赤く光る目はまるで異形だ。
「おのれ、こざかしい真似を……っ!!」
吠えるように叫んだ和弘の口には大きな牙が生えていた。鬼のようなそれは、過去に緋波を喰い殺したそれであり、その鋭さに舞白はぞくりと背筋を凍らせる。
じゃり、と和弘が小石を踏んで、そこから勢いよく龍由に向かって跳躍した。
「龍由さん!」
ダン! と龍由を仰向けに倒し、その上に馬乗りになった和弘はその大きな牙で龍由の肩に噛みついた。ブツリ、と牙が皮膚を破る音がして、和弘が顎をグイっと振ると、メリメリと音をさせて龍由の肩の肉を喰いちぎった。あたり一面に青い血が飛び散る。
「く……っ! 鬼の力か!」
龍由は顔をしかめて自分と和弘の間に腕を差し入れると、力任せに和弘を投げ倒した。ドオン! という音と共に吹っ飛んだ和弘が拝殿の階段に打ち付けられる。それでも痛みを感じないのか、和弘はすぐさま立ち上がり、腕を体の前にだらりとたれ提げると、今度こそ持っていたナイフを握り直し、獣のような速さで立ち上がったばかりの龍由に向かって突進した。
シュっと空気を切る音がする。
驚異的な速さで和弘の腕から突き出されたナイフは今度こそ龍由の腹部に突き刺さった。
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