私は貴方のもの

21/21
前へ
/169ページ
次へ
――『舞白』 不意に頭の中に声が聞こえた。 「なに!? 誰!?」 頭の中に聞こえているというのに、舞白はその場であたりを見渡した。声の主を探したのだ。 再び頭の中に声が聞こえる。 ――『私は緋波。龍由さまを助けるために、貴女の力を貸して』 舞白の力だって? そんなものがあって、龍由が助かるなら、何でもする。 ――『龍由さまの中の波を引き寄せて』 波? 波って、あの占いの時のような感覚だろうか。兎に角、やれることはなんだってやる。舞白は龍由の傍らに膝をつき、手を体の上にかざした。精神を集中して、龍由の力の波を探り当てる。 (流れてる……。龍由さんの『(からだ)』から力が流れ出て行ってしまってる……。そっちは駄目! こっちよ!) 流れ出て行こうとする神力の流れを、念じて引き戻す。頭の中で神力を手繰り寄せるイメージをして、大きな塊を、ぐっと引き寄せ、『器』に戻す。 ――『今よ! 龍由さまから頂いた力、全部を、龍由さまにお返しして!』 緋波がそう言うと、舞白の体の奥底にあった力の塊が、ぐぐっと喉元までせりあがって来た。 舞白はそれを逃すまいとして、人工呼吸の要領で龍由に送り込んだ。見る見るうちに自分の中から『波を読む』力が無くなっていくのが分かった。 ……ああ、これで私の中にあった龍由さんの力は、全て龍由さんに帰ったんだわ……。 緋波に与えられていた分も、舞白に与えられた分も、最後のひとしずくまでが龍由に帰った時、龍由が閉じていた瞼をふうっと持ち上げた。 「龍由さん!」 舞白が首に抱き付くと、龍由は一度ゆっくり瞬きをして、呟くようにこう言った。 「そうか、緋波は逝ったのだな……」 そう空気を震わせて、舞白のことをいとおしむように抱き締めた。 ……雨は舞白たちを避けるように振り続けた……。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加