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――『舞白』
不意に頭の中に声が聞こえた。
「なに!? 誰!?」
頭の中に聞こえているというのに、舞白はその場であたりを見渡した。声の主を探したのだ。
再び頭の中に声が聞こえる。
――『私は緋波。龍由さまを助けるために、貴女の力を貸して』
舞白の力だって? そんなものがあって、龍由が助かるなら、何でもする。
――『貴女の力で龍由さまの中の波を引き寄せて』
波? 波って、あの占いの時のような感覚だろうか。兎に角、やれることはなんだってやる。舞白は龍由の傍らに膝をつき、手を体の上にかざした。精神を集中して、龍由の力の波を探り当てる。
(流れてる……。龍由さんの『器』から力が流れ出て行ってしまってる……。そっちは駄目! こっちよ!)
流れ出て行こうとする神力の流れを、念じて引き戻す。頭の中で神力を手繰り寄せるイメージをして、大きな塊を、ぐっと引き寄せ、『器』に戻す。
――『今よ! 龍由さまから頂いた力、全部を、龍由さまにお返しして!』
緋波がそう言うと、舞白の体の奥底にあった力の塊が、ぐぐっと喉元までせりあがって来た。
舞白はそれを逃すまいとして、人工呼吸の要領で龍由に送り込んだ。見る見るうちに自分の中から『波を読む』力が無くなっていくのが分かった。
……ああ、これで私の中にあった龍由さんの力は、全て龍由さんに帰ったんだわ……。
緋波に与えられていた分も、舞白に与えられた分も、最後のひとしずくまでが龍由に帰った時、龍由が閉じていた瞼をふうっと持ち上げた。
「龍由さん!」
舞白が首に抱き付くと、龍由は一度ゆっくり瞬きをして、呟くようにこう言った。
「そうか、緋波は逝ったのだな……」
そう空気を震わせて、舞白のことをいとおしむように抱き締めた。
……雨は舞白たちを避けるように振り続けた……。
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