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「……龍由さんは、もう緋波のことは忘れてしまうの……?」
恋敵だったけど、龍由があれほど愛した女性だ。舞白とも同化していたし、今となっては自分の中に彼女を見ても良いと思う。……そうじゃないと、三百年待った龍由の心も、三百年彷徨った緋波の心も報われない。
舞白が言うと、龍由は、そうだな、と呟いた。
「愛する女性は一人で良い……。私はあの時、力の限りで緋波を愛した。これからは舞白だけを愛することを許してくれるか?」
許すも何もない。一人の女として、これ以上に嬉しいことがあるだろうか。
龍由が抱き寄せていた舞白の髪の毛を梳いた。そのやさしい体温に泣きそうになってしまう。ずっと会いたかった緋波にあんな形でしか会えなかった龍由の寂しさを考えると、舞白の存在でそれをちゃんと慰めてやれるのかと心配になる。それでも……。
「緋波の分も、龍由さんに寄り添うわ……。緋波が出来なかった、これからの時間を、ずっと……」
舞白がそう言うと、龍由は微笑んでくれた。抱き締める力がぐっと強くなり、龍由の気持ちを伝えてくる。言いようのない幸福を感じて、舞白は目をつむった。
龍由の鼓動が聞こえる。既にそれに共鳴することも出来なくなった舞白だけど、そのリズムをいとおしいと、心から思った。
恵みの雨がしとしと降っている。龍川町の龍神伝説は、新しい時を刻み始めた――。
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