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♯01.探し物の行く末に
「お願いだから、早まらないでっ!」
不意に川岸から叫ばれ、気付いたら俺の左腕を、白い両の手がグッと掴んでいた。これ以上先へ歩く事を禁ずるように、押し留めているのだと思った。
「何が有ったのかは、存じませんがっ。自殺は駄目です! 絶対にっ!」
彼女は真剣な瞳をしていた。水色に深い碧が入り混じり、少しの間その色に魅入られる。
「自殺? 俺が?」
ゆっくりとした口調で訊ねる。俺と彼女の間に微妙な空気が流れた。
やがて彼女は自分の勘違いだと悟り、たちまち頬を赤らめた。
え、あ、と挙動不審になり、唇が震える。俺に触れていた手を慌てて引っ込めた。
俺は彼女から視線を逸らし、周囲を見渡した。
ーーああ、なるほど。
確かに、自殺を疑われても仕方ない。
中心は何処まで深いのか分からないが、俺は大きな川の浅瀬に立っていた。水位は丁度膝あたりで、流れは比較的穏やかだ。
ここから更に奥へ進むと、全身はトプンと水に浸かり、あっさり逝けるかもしれない。もがき苦しむ事を無視すれば、の話だが。
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