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「ご、ごめんなさいっ。わたしてっきり、あなたがこのまま歩いて行くのかと思って」
彼女はまごつき、両手を口元に添えた。
俺はそんな彼女をジッと見つめた。
美人だと思った。何処ぞの貴族娘を思わせる容貌なのに、その出で立ちは町娘に相違ない。
胸元まで伸びた栗色の髪が綺麗で、無意識に手を伸ばしていた。
「あの……?」
髪に触れられた事で、彼女は困惑していた。
「勘違いをさせてすまない。ちょっと、探し物をしているんだ」
手の平の髪をサラリと流し、小さく笑った。探し物、と言って彼女は眉をひそめる。
「ああ。俺にとって大切な人の形見。こんな所だから、見付かるかは分からないが。さっき橋の上から落としてしまって……」
言いながら彼女に背を向け、宙を指差した。大きな橋の欄干が見える。今しがた、丁度あの場所に立っていたのだ。
再び、目当ての場所に歩を進めた。膝まで捲ったスボンは、その甲斐もなく、水の揺れで腿まで濡れている。
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