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そんな事を何回も何回も繰り返し何回目かの夏、死ぬ事をまるで寝る事のように言う彼に聞いてみた。
「死ぬって、君にとって何?」
咥えていた煙草を手に持ち彼は言った。
「無、かな」
「無?」
「そう、無。特に意味はない。世界から無くなる事。無くなったところで変わる事はなにもない。例えばここを歩いている蟻を潰したら蟻は死んじゃう。明日ここに来た時死んだ蟻はもうどこにもいないと思う。世界から消えちゃうんだよ。それに意味はあるの?俺はないと思う。だから死ぬ事に意味はないよ。生きる事も一緒、全部意味なんてない」
そう言う彼はまた煙草を咥えて、先端を灯らせ足元を歩く蟻を指で潰した。
「一緒にここから飛び降りない?」
初めて彼を誘ってみた。
ギラギラのピアス。首のタトゥーの意味、私は何も彼のことを知らない。
けれど彼も私の顔の傷、夏なのに長袖長ズボンの意味を知らない。
お互い何も知らない。知っているのはお互い、世界に絶望していて心の準備はできているってこと。
そして、やっと私の洗脳は溶けた。
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