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あの時、私を抱きしめてくれた祐誠さんのぬくもりと感触。
目を閉じれば、声まで思い出せる。
甘く囁くような声。
それが私の中によみがえってきては私の心を揺さぶる。
あれは……いったい何だったのか。
ダメダメ、私は仕事で来てるんだよ、頼むからしっかりして。
私は自分にそう言い聞かせながら、前に進んだ。
「着いた……」
目の前にそびえる立派なビル、そこに立った瞬間、春風が私を包んで、そして優しく吹き去っていった。
遥か上を見上げ、深く息をする。
「行こう」
私は、エレベーターで社長室まで上がり、廊下を進んで部屋の前に到着した。
「美山様」
「へっ?」
緊張がピークに達したところで呼ばれてしまい、振り返りながら、思わず間抜けな声を出してしまった。
「こんにちは」
秘書の前田さんだ。
私の変な声に、少し笑ってる?
前田さんには、いつも笑われてる気がするな。
本当に恥ずかしい。
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