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転校初日の洗礼1
忠治(ただはる)は担任の後ろについて上履きの後ろを踏んだまま、廊下をペタペタと歩く。
転校生がやって来ると事前に聞いていたのか教室の前の廊下には何人もの生徒が出てきてこちらを見ている。
前の学校は共学だったがここは全寮制の男子校。しかもマンモス校でもあり、忠治はナメられないように気を引き締めた。
珍しいものでも見るかのように遠巻きに全身をジロジロと見られ、忠治が目の前を通り過ぎると誰かがヒューっと口笛を鳴らす。
忠治がムカついて振り返ると誰もが素知らぬ顔をした。
【何なんだってのっ。新参者に対する"洗礼"ってやつか?】
小さく舌打ちをする。
「君達、早く教室に入りなさい」
担任に促され奴等はニヤニヤ笑いながら教室の中へ入って行った。
「呼んだら中に入ってきてくれるか?」
「はぁ」
担任が教室の中に入っていき、忠治はこの先の不安にハァと溜息をついた。
忠治は今まで離婚した母方の祖母に育てられてきたが、その祖母が最近他界し行き場を無くした。
父親は生きているのか死んでいるのかさえも知らない。
既に再婚をして別に家庭を持っている母親は前夫との間に産まれた忠治を疎ましく思い、今回この全寮制男子校へ押し込んだのだ。
「転入生を紹介する。入りなさい」
忠治はドアを開けるとペタペタと歩き、生徒の方を向き直った。
「赤城忠治(あかぎただはる)です。よろしく」
全員が忠治を値踏みするように黙って見ている。
「では何処か空いてる席は……あるか?」
「はーい、ここ先週退学になって空いてまーす」
「ではあそこに」
「はい」
忠治がその空いている後ろの席まで歩くと、いきなり足が伸びてきて思わずその足に蹴つまづいた。その時一瞬尻臀を掴まれる。
不覚にも動揺して床に手をつき片膝をつくと頬が火がついたように赤くなった。
数人のクスクスという鼻で笑う声が聞こえる。
忠治はその尻を触った男を睨みつけ、立ち上がりそして男の胸倉を掴みあげた。
「てめぇ、何しやがるっ」
「お綺麗なベッピン顔して男の前をケツ振って歩いてんじゃねぇよ」
【ハァ?ベッピン顔?ベッピンって……俺の事か?!】
「ベッピンってのはなぁ、女に言う言葉だろがっ、あぁ?」
「あー、そこ。赤城くん、止めなさい。授業を始めますよ」
担任は慣れたように忠治に注意すると忠治はチッと再び舌打ちをして男の胸倉から手を離した。そしてイラつきながらドカッと椅子に座る。
「赤城くん、教科書は……まだですか?」
「まだです。荷物今日の夕方の便で届くんで」
「ではどちらか隣………見せてあげなさい」
「はい。じゃあ僕の一緒に見ましょ?ね?」
そう言って眼鏡を掛けたサラサラ髪の優等生っぽい生徒が忠治の机に机を引っ付けて真ん中に教科書を置いた。
「……どうも」
「いえいえ。困った時はお互い様……でしょ?」
にっこり微笑む可愛らしい小柄な青年。
【なんだ。アホばっかだと思ったけどちゃんとまともな奴も居るじゃんか】
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