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「もう雨が降ってきたのか。」
駅から歩いて10分もかからないほどのマンション。
通いなれたその部屋の住人である彼は、インター
ホンを鳴らすとすぐに部屋に通してくれる。
折り畳み傘を玄関に置いて、部屋に上がった私の手にごく自然に触れた。
「冷えてるな。」
「冷え性だから。」
「だったらそんな薄着で来るなよ。」
言いながら、後ろから体をすっぽりと包み込んで
いく温かい腕。
「雨で濡れると余計冷えるだろ。」
「大丈夫だよ。小雨だったし。」
「駄目だ。風邪ひく。」
こういう時、彼をまるでお父さんみたいだなって
思ってしまう。
心配性というか、過保護というか。
むしろお父さんよりもお父さんらしいんじゃない
かとすら思える時があるくらい。
それはちょっと恥ずかしいけど、嬉しいことで。
でも私はどんな顔をしたらいいのか、何て言ったら
いいのか分からなくなる。
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