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空気が冷えた、まだローテーブルしかないがらんとしたリビング。
スカートがしわにならないように気をつけながら、床に座った。
四ノ宮さんが、湯気のたつココアを置いてくれた。
「はい、バター入りココアです」
火傷したくないので、ちびりと唇だけをつけてなめる。コクがあって、おいしい。
「四ノ宮さんは、雪女だったりしますか」
ばかにされるかもと思いつつ、ずっと考えていたことを思い切ってたずねた。
「うーん。わたしたちは、ちょっと違います。確かに雪をつくったり凍らせたりすることもできますが、それだけではないんです。桜を咲かせることもできるし、入道雲をつくることもできるし、とんぼを飛ばせることもできる。――わたしたちは、季節屋なんです」
「季節屋?」
「はい。依頼人の方々に、季節をお届けするんです。魔法で季節をつくって、それをカプセルに閉じ込めて、お届けする。いい仕事ですよ。わたしと、旦那さんの悠さんでやっています」
「今、リビングが冷えてるのは、冬をつくっていたってことでしょうか」
二月に冬を届ける。届ける必要も、ない気がするんだけど。
わたしの心を読み取るように、四ノ宮さんは「届ける必要ありますよ」と言った。
「ほら、病気とか怪我とか、忙しかったりとかで、みんながみんな冬を満喫できたとは限らないんです。だから、必要なんですよ」
「……わたしも、あんまり満喫できてないです」
クリスマスも年末年始も誕生日も、ひたすら塾に行っているうちに終わっていた。
「それはもったいないですね。今からでも遅くはありません。満喫しましょう! 悠さーん」
奥の部屋から、クマみたいにのっそりしたTシャツ姿の人が顔を出した。首に一筋の汗が伝っている。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
低く小さくあいさつされて、慌ててこちらもあいさつを返した。
「悠さんは無口ですが、優しい人です。悠さんは夏をつくるのが得意なんです」
旦那さん――悠さんの話をする四ノ宮さんは、どこか誇らしげだ。仲良いんだな、このご夫婦。
「そしてわたしは、冬が得意。いきますよ、いち、にの、さん!」
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