ふしぎな季節屋さん

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四ノ宮さんが片足を軸に一回転すると、いつのまにか雪景色になっていた。 積もった雪のうえに私は座っていて、テーブルがあった場所はかまくらになっていた。 「さ、入りましょう」 ココアの入ったマグカップを持って、四ノ宮さんと、悠さんとかまくらに入る。 このあたりだと雪はそれほど降らないから、とても新鮮。かまくらも初体験だ。 かまくらを中からさわると、ちゃんとひんやりしていた。偽物でもなんでもない、正真正銘の雪だ。 かまくらの出入り口の向こうでは、雪がしんしんと降っている。 この場所では、ココアがよりしみた。 「わたし、受験生なのでこの冬なんにもできなかったんです。しかも今日第一志望に落ちちゃって、これからなんにも楽しめる気がしないんです」 突然つらつらと話し始めたわたしに、ふたりは驚かず耳を傾けてくれた。 「想像つかないんです。滑り止めだった高校に行って、そこに三年間通う自分が。もう春なんて、来てほしくないんです」 四ノ宮さんが、わたしの頭を優しく撫でた。 「ゆきちゃん。ゆきちゃんは、よく頑張りました。自分では納得できてないかもしれませんが、きっと高校生活は楽しいですよ。人生って、嫌なこともありますがきらきらしたことも多いので」 頭から温もりが伝わる。悠さんも、うんうんとうなずいた。 「だから、大丈夫です」 そう言われて、わたしは思わず泣いてしまった。 「それでは、ありがとうございました」 玄関で、四ノ宮さんと悠さんに頭を下げる。 「また、いつでも来てくださいね。それとこれ、プレゼントです」 手のひらの上に、ガチャガチャにあるようなカプセルをのせられた。 「このあと、おうちで開けてみてください。きっと、これからが楽しみになりますよ」 四ノ宮さんに言われた通り、家に戻って自分の部屋で、カプセルを開けてみた。 カプセルから、もくもくと煙がのぼる。あらわれたのは、腰ぐらいの高さの満開の桜の木だった。 なるほど。これは、春が楽しみになる。 わたしは鼻歌を歌いながら、一足早いお花見をすることにした。 お母さんとお父さんが帰ってきたら、受験の結果をちゃんと報告しなきゃ。 そしてこれも伝えよう。落ちちゃってへこんでもいるけど、わたしはこれからの生活を楽しみにもしているよってこと。 〈おわり〉
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