11人が本棚に入れています
本棚に追加
四ノ宮さんが片足を軸に一回転すると、いつのまにか雪景色になっていた。
積もった雪のうえに私は座っていて、テーブルがあった場所はかまくらになっていた。
「さ、入りましょう」
ココアの入ったマグカップを持って、四ノ宮さんと、悠さんとかまくらに入る。
このあたりだと雪はそれほど降らないから、とても新鮮。かまくらも初体験だ。
かまくらを中からさわると、ちゃんとひんやりしていた。偽物でもなんでもない、正真正銘の雪だ。
かまくらの出入り口の向こうでは、雪がしんしんと降っている。
この場所では、ココアがよりしみた。
「わたし、受験生なのでこの冬なんにもできなかったんです。しかも今日第一志望に落ちちゃって、これからなんにも楽しめる気がしないんです」
突然つらつらと話し始めたわたしに、ふたりは驚かず耳を傾けてくれた。
「想像つかないんです。滑り止めだった高校に行って、そこに三年間通う自分が。もう春なんて、来てほしくないんです」
四ノ宮さんが、わたしの頭を優しく撫でた。
「ゆきちゃん。ゆきちゃんは、よく頑張りました。自分では納得できてないかもしれませんが、きっと高校生活は楽しいですよ。人生って、嫌なこともありますがきらきらしたことも多いので」
頭から温もりが伝わる。悠さんも、うんうんとうなずいた。
「だから、大丈夫です」
そう言われて、わたしは思わず泣いてしまった。
「それでは、ありがとうございました」
玄関で、四ノ宮さんと悠さんに頭を下げる。
「また、いつでも来てくださいね。それとこれ、プレゼントです」
手のひらの上に、ガチャガチャにあるようなカプセルをのせられた。
「このあと、おうちで開けてみてください。きっと、これからが楽しみになりますよ」
四ノ宮さんに言われた通り、家に戻って自分の部屋で、カプセルを開けてみた。
カプセルから、もくもくと煙がのぼる。あらわれたのは、腰ぐらいの高さの満開の桜の木だった。
なるほど。これは、春が楽しみになる。
わたしは鼻歌を歌いながら、一足早いお花見をすることにした。
お母さんとお父さんが帰ってきたら、受験の結果をちゃんと報告しなきゃ。
そしてこれも伝えよう。落ちちゃってへこんでもいるけど、わたしはこれからの生活を楽しみにもしているよってこと。
〈おわり〉
最初のコメントを投稿しよう!