ふしぎな季節屋さん

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高校の合格発表からマンションに帰ってくると、隣の505号室の前に段ボールが積まれていた。 そういえば、新しい人が引っ越して来るって聞いた気がするな。そう思いながら開きっぱなしの扉の前を通ると、人殺しみたいな冷気が漏れてきた。 「寒っ」 ぎょっとして声が出る。今日は暖かいから、コートもタイツもマフラーもしていない。 鍵を片手に、504号室へ足早に向かった。 玄関の前にあるものを見て、膝から崩れ落ちそうになる。見覚えのない雪だるまが仲良くふたつ並んでいた。 「日本式と西洋式……」 「あ、正解です。二頭身も三頭身も、どっちもラブリーですよね」 のんびりした声が聞こえて横を向くと、もこもこのストールを巻いた二十代くらいのお姉さんがにこにこしながら立っていた。 「ええと……」 「あ、505号室に引っ越してきました、四ノ宮といいます〜。その雪だるまは、わたしたちからのプレゼントですよ」 「この場所に置かれたら、扉開けられないんですけど……」 「まあ、大変。それなら移動させましょうか」 四ノ宮さんがショートブーツのかかとを鳴らすと、ふたつの雪だるまはわたしの前をびょんびょん跳ねながら通過していった。 ひい、と喉の奥で叫ぶ。 四ノ宮さんは、相変わらずにこにこしたままだった。 「お名前、聞いてもいいですか?」 「立川、雪乃です」 「ゆきちゃんですね。ゆきちゃんは今、鍵を持っていますが、ご家族はお留守なんですか?」 「はあ、共働きなもんで」 「あらさみしい。よかったら、わたしたちのところで一休みしていきませんか? さっきまで冬を作っていたところなので寒いし、引っ越しの荷解きもまだ終わっていないんですが」 “冬を作る”? 一体、どういうことだろうか。 危ない人に関わるべきでない、という思いと近所づきあいは大事、という思いが頭をぐるぐる回る。 どんな人か知りたいから、ひとつ質問してみよう。 「急な質問になりますが、四ノ宮さんの好きなものはなんですか?」 「……コンテンポラリーダンスでしょうか? あと、食べ物だとドラゴンフルーツ」 とりあえず、ちょっとユニークなっぽい。 悪い人ではなさそうだし、今ひとりで家にいるのも気が滅入りそうなので、お邪魔することにした。
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