3人が本棚に入れています
本棚に追加
まず言っておきたいのだが、佐川輝は本来いじめを行うような人格の人間ではない。
これは彼の名誉のために言っておこうと思う。
佐川家は輝という一人息子がいる平凡な家庭だった。
都心部より少し離れた市街地に本社を構える零細企業を経営する父と経理として会社を支える母がいる平凡な家庭。
その家庭が平凡ではなくなったのは、穂室慧祐の家族がこの街にやってきたことから始まる。
「・・こんなことになるなんて・・・。」
輝の父、佐川和夫が取引先から帰ってくるなり、事務所のソファーで項垂れた。顔面蒼白な夫の顔を見て、妻であり輝の母である信子は横に座って話を聞くしかなかった。
和夫の話によれば、取引先である大手企業の総務部長が異動してきたらしい。
今までこの街にあるその企業の第二工場では、管理職は地元の人間から登用されることが多かった。
第二工場の誘致の際に大きな反対運動があり、その遺恨はしばらくこの街に残されていた。企業としては地元との摩擦を少しでも軽減させたい・・幸いこの街は少し前から電子部品を作る会社がいくつかあり、第二工場で使用する部品を仕入れる取引先としては申し分のない品質でもあった。
そもそも第二工場がこの街に建設されたのも、そこが目的であったわけだが。
最初のコメントを投稿しよう!