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リビング内に雨音だけがザーザーと響いている。
テレビの音も、鍋の煮立つ音もキッチンに水の流れる音も、そして、美沙の声も無くなった辺りはシーンと静かになった。
ソファに項垂れる健一は、心に叫んだ。
ー 此れで良かったんだ、あんな女が居なく生って 、清々した ! ー
しかし ……
淋しさが空しさが、切なさが愛しさが、渦巻いた。
健一は、心に呼びかけた 。
謝ろう ! 美沙を抱きしめて土下座をして、そして、叫ぶんだ !
結婚してくれ !!
情けなき健一に初めて、結婚、という言葉が浮かんだ !
未だ間に合う !
健一は、リビングから玄関へ、傘には目も呉れず駆け出して行った。
薄闇の外は土砂降りだった !
槍の様な雨が襲う空間 !
びしょびしょでグチャグチャのジャージ姿の健一が、黒光りの雨粒刎ねる道路を、一目散に駆け抜けた !
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