91人が本棚に入れています
本棚に追加
健一は美沙の面影の全てを流したかった、タダひたすら土砂降りの雨の中を歩き続けた。
静まり返った住宅街の道路を、シャッターの閉まった淋しい商店街の道を、ビルが並ぶ大通りの街灯燻る歩道を、行き交う車の跳ね上がる水飛沫を浴びながら、健一は、夢遊病者の様にふらつき彷徨った。
傘を差していても、健一の髪の毛はビショ濡れて、ジャージもビショ濡れで、靴は水が溢れ重かった。
頭の中では、知らない夜の雨の街に行ってみようと、新しい街を、さ迷ってみようと思っていても、結局健一は歩きなれた道を何度も往復していた。
どのくらいの時間、薄暗い道を彷徨っていたのか、土砂降りの雨は、何時しか小降りの雨に生っていた。
疲れ果てた健一は、気が付けばアパートの前に立ち、3階建ての角部屋の美沙と自分が同居している部屋を見詰めていた。
最初のコメントを投稿しよう!