涙の策略

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   6帖の和室に立つ健一は、文机の上に観た事の有る、小型のノートが置いて在る事に気が付いた。 手に取ると、桜の花見に行った時に、美沙が健一の目の前に翳したノートだった。  開くと    ー 彪昭、寅治、虎喜、虎明、寅喜 ー   美沙の筆跡の文字が並んでいた。    健一が幾つかのページを捲ると、花見で美沙が健一に見せた文字が並んでいた。   ー さくら ・ サクラ ・ 桜 ・ 櫻 ・ 咲良 ・ 佐久良 ・ 咲楽 ・ 咲来  ー  そして次のページを開いて、健一の胸は熱く生った。    其処には、    ー 海 原(かいはら) 健一(夫) ー     ー    美沙 (妻) ー    ー     咲楽 (娘) ー  生まれて来る子供は、女の子で、名前は咲楽(さくら)なのか。  咲楽は健一が選んだ名前だった。    健一は夫で、美沙は妻で、咲楽(さくら)は娘。  此れが美沙の本当の想いだ !    美沙の想いは、健一の想いを遥かに超えている。  美沙に逢いたい、直ぐに逢いたい !    明日、三島に行って家々を1軒1軒廻って美沙の実家を探そうなんて、悠長な事は、やっていられない。  直ぐにでも自分の想いを伝えたい。    母さんなら、美沙の実家の住所を間違いなく知っている事に気が付いた。    もう夜の11時を過ぎているが、母さんなら怒られても構わない、一刻も早く美沙が今いる、実家の住所を聞きださなくては !  
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