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10回ぐらいのコールで信子は電話に出た。
夜中にしては、意外と早く受話器を取ったと思った。
「健一なの、御前いい加減にしなさいよ、何でコンナ時間に電話を寄こすのよ 、何で、私が何回も電話をしたのに1回も出ないで、こんな夜中に電話をして来るのよ」
「えっ ? 母さん、僕の所に電話を掛けて来たの ?」
健一は母さんが電話をして来た時間に、土砂降りの雨の中を彷徨っていたなんて、言えるわけが無かった。
「お前、ふざけているの、何でお前だけ、ぬけぬけと家に居るのよ、何で美沙ちゃんと一緒に来なかったのよ」
「えっ!? 美沙は !? 美沙は、母さんの所に来ているの ? 」
「お前、本当に夜中に電話をして来て、ふざけた事を言ってるわね、お前が寄越したんじゃないの」
ー 美沙が連絡を取ったって、母さんの所だったのか ! ー
「母さん ! 美沙を美沙を電話口に出してよ !」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ、美沙ちゃんは疲れて2階の部屋で寝ているわよ」
「母さん、僕は、明日一番の新幹線でそっちに行くから、美沙を出掛けさせないように引き留めといてくれよ」
「お前、頭が可笑しくなったの ? 本当に大丈夫なの ? 美沙ちゃんから健一さんは、今日は用事が在って来れないけど、明日来ますからって、ちゃんと聞いてるわよ」
「えっ?!そんな事を美沙が …… 」
ー 美沙は僕の行動を、見通している、母さんに電話をして来て、明日、僕が向うことは計算づくなのか … ー
「だけど健一、私は美沙ちゃんと電話での遣り取りは、しょっちゅうしていたけど声しか聞いたことがないだろ、今日初めて美沙ちゃんの顔を観たんだよ、美沙ちゃんはね家に入って来るなり、私の目の前で眼鏡を外して、涙を浮かべたんだよ、私は目を見張ったよ、メガネを外したら、飛んでもない美人じゃないか」
「えっ、美沙が ?! 行き成り母さんの目の前で、涙を浮かべた ?」
「そうだよ、行き成りで、びっくりしちゃったわよ、だけど、お前、こんな美人の美沙ちゃんになんて事を言わせるのよ」
「 何て事を言わせるって ? 母さん、美沙がなんか言ったの ? 」
「言ったわよ …… お前ね、お前はなんでコンナ事を、可憐で綺麗な美沙ちゃんの口から言わせるのよ ! お前が美沙ちゃんの両親に言わなきゃいけない言葉じゃないか、お前、自分の情けなさがチャンと解っているの ?」
「何を言っているの ? 美沙は母さんの目の前で、一体何と言ったの ? 」
「美沙ちゃんは、私の眼の前で膝まづいたんだよ、涙を浮かべたんだよ … そして … そしてよ …… 」
信子は、涙声に生っていた。
「母さん、如何したんだよ ? 美沙は、何って言ったんだよ ? 」
「美沙ちゃんは … 美沙ちゃんはね …… こう言ったんだよ ! お母さん、私は健一さんの、お嫁さんに生ります ! 私は、お母さんの 娘に、生ります…… よろしくお願いします !… って …… 」
「 ! 」
健一は言葉が出なかった 。
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