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「やっぱりそうか」
竜飛さんが神妙な顔で呟く。
「やっぱりって?」
「桜介だよ」
「えっ?」
竜飛さんは、自席に行き浮輪を置くと、開いていた穴を溶接してから接合する作業を始めた。これはおじいちゃんがちょっと前に竜飛さんに教えていた。
「待って、それってどういう事ですか?」
「俺達は壊れたものやそのままだと困ってしまうも
のを直すのが仕事だって、理乃、言ったよな?」
「はい、言いましたけど?」
「そのままにしたら困ってしまうのはこの場合さ、
桜介の心の方だってこと」
「心?」
竜飛さんはきょとんとした私に意味ありげに笑むと、手早く作業に入らないと、納期に間に合わなくなるぞと珍しく真面目な口調で言った。
それから私達は二人でおもちゃの不具合を一つ一つ丹念に調べて、直せるものか否かを選別し修理に取り掛かった。
その作業はそれから毎日遅くまで続いて、おじいちゃんも仕事の合間に手伝ってくれた。
そして、一週間後、約束の日の朝。
修理することが出来たおもちゃは段ボール七箱持って来たうちの、二箱だけだった。後の五箱分のおもちゃは思ったより痛みが激しくて、中には尖った先端が剥き出しになってしまったものもあり、四歳の子が遊んでまた壊れると危険だと推測されるものだったので、夫人に相談することにして、元のまま箱に入れられた。
修理出来なかった五つの段ボールを見つめ、
私は複雑な気持ちになった。
「どうした、理乃?」
出かける前に一杯だけと温かい珈琲を飲みながら、ワゴンに積んだ段ボールを眺めていたら、後ろから竜飛さんに声をかけられた。
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