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第一章 あなたのオモチャではありません。
「いい加減にしてください、
何度言ったらわかるのですかっ!」
ああ、私、こんなに怒る人だった?
いや、そんなことはない。こんなに怒ることなんて滅多になかったはずだ。そう、私のいない間に針が動かなくなった依頼品の腕時計を勝手に触り、小型ドライバーで見事に分解してしまったこの人が店に来るまでは。
竜飛さんは私を上目遣いで見上げた。
切れ長のダークブラウンの瞳には明らかに不満が浮かんでいる。私よりもふさふさで長めの睫毛、緩いウェーブのかかった癖毛の髪は光に透けると金色に光る淡い栗色をしていて、その顔立ちはイケメン俳優の様に艶っぽい。
「怒った理乃もやはり可愛いな。
日本人形みたいだ。着物とか着せて
その胸元をはだけさせたくなる」
そんなことを囁きながら、竜飛さんは私が後ろでひとつ結びにしている髪に手を伸ばしてきた。
「艷やかな黒髪、円な瞳、ホワイトチョコレート
のようなその肌は甘い、のか?」
「し、知りませんっ!」
「試させてくれ」
なんて結んだゴムを解こうとするから
その手首をはしっと掴んだ。
「この依頼品!もう廃盤のものなんですよ?!
その部品を失くしたって言われても困ります!
同じ部品なんてもう製造されていないんですよ。
事の重大さ、竜飛さん、わかってます?!」
早口で鼻息荒く言うと、私は店の奥にある作業スペースの机に座っていた彼に身を乗り出すようにして、左の人差し指で彼の鼻先を突いた。
思えば、それがいけなかったのかもしれない。
あっという間にぐいっと左手首を掴まれて、
胸の中へ閉じ込められてしまう。
「は、離して下さい」
「やだ」
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