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猿渡家に着いた。
段ボールを全て二階の子供部屋に運び入れた時、
この前はドラキュラの服を着ていた青年が普通のギャルソン姿で下から上がって来て私達を呼んだ。
「作業が終わりましたら、ぜひお茶をと、
奥様が申しております」
「いえ、お構いなく」
「旦那様も今しがたお帰りになり、
お待ちしておりますので、どうぞ」
丁寧に頭を下げると、青年は出て行った。
「今日は妙な変身してないんだな」
「ですね」
階下に降りて行くと、海外出張を終えた猿渡家の主、猿渡さんが帰って来ていて、夫人からスプリングコートを脱がせてもらっていた。リビングの方では桜介君が先程、プレゼントした木馬に乗り、ほどいた青いリボンをカウボーイのようにぶんぶんと振り回して楽しそうに遊んでいた。
猿渡さんは愛想の良い笑みを浮かべて、
私達に握手を求めて来た。
「やあやあ、いらっしゃい。重ねていろいろ修理をお任せしてしまってすみませんでしたね」
「いえ、こちらこそ、時間がかかってしまって
すみませんでした」
私が頭を下げると、猿渡さんは目を細めて言った。
「ところで、あの木馬を作られたのは?」
「ああ、私です」
竜飛さんが言うと、猿渡さんはスーツの内ポケットから財布を取り出して、それを開いた。
「おいくらですか?」
竜飛さんは目を細め、それから静かに微笑んだ。
「先日お預かりした腕時計と、同じくらいになりま
すね」
猿渡さんは目を丸くして、腕時計を見た。
廃盤になっているそれは某有名時計ブランドの超高級品だ。購入価格は軽く車一台分は買えると知っていた。
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