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すると、すん、と鼻を啜る音が頭の上から聞こえて来た。まさか、泣いてる…訳はないか。
「あのっ、聞こえてます…?
とりあえず手を離して下さい。今は仕事中ですっ」
胸を叩いて離れようとしたけれどびくともしない。
抱き竦められたままの小柄な私に高身長の彼の甘やかな低音ボイスが落胆の声音を含んで落ちてきた。
「理乃。俺は今、めちゃくちゃ凹んでる。
女に怒られたことないからメンタルをやられた」
耳障りだったら良かったのに、
けっこうイケボだから困る。
「今のままだとどうなるか、わかるか?」
「どうなるのですか?」
「可愛いのだけど怒りっぽい上司に
パワハラされましたって訴える」
「何でそうなるんですかっ、私は只…」
「訴えられたくなかったら、わかるか?」
「?」
「示談だ。理乃なら
ほら、ここにチュウっとするだけで
解決できる」
「あの、バカなのですか?」
私の唇の前に突き出された唇にたじろぐ。
狼狽えてデコピンしたら
竜飛さんは痛そうに仰け反った。
全く、この人はいつもこうだ。
さっきのも嘘泣きみたいで、涙一個落ちてない。
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