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燃えるソレ
ひらひら、ひらひら。
ドレスの裾が揺れてるみたい。
真っ赤なそのドレスは、まるで燃えるようだわ。
…いつまでもみていられる。
“ソレ”は突如我が家にやってきた。
「まーた、金魚みてるの?」
同居人の瑞樹が、半ば呆れた様に笑いかける。
まあ、ただの同居人と思ってるのはアタシだけで
瑞樹は心の底からアタシの事、ダイスキなのは分かってるんだけどね。
「だって、綺麗なんだもん。」
構って欲しそうな瑞樹に、ぷいっと顔を背けて
私はまた ソレ に向かって視線を戻す。
ひらひら、ひらひら。
揺れるロウソクの炎みたいね?
「…ほんと、これ買ってきてから
今にも食べそうな勢いで見てんだもん。
妬いちゃうよお?」
痺れを切らしたのか、瑞樹はアタシを
後ろから抱き寄せてきた。
…暑苦しいわ。
「ちょっと。やめてよ。」
アタシは自分の気の向かない時に
ちょっかいを出されるのが大嫌いだ。
キッと一瞥すると、瑞樹は一瞬怯んで
すっとアタシから身体を離す。
「もお、本当冷たいなあ」
うるさいわね、今は気が乗らないの。
目の前のソレは まあるい鉢のなかで
揺れ動くアタシ達をみて
心なしか さっきよりも
ヒラヒラ燃えている気がする。
さっきまで背中に感じてた瑞樹のぬくもり。
目の前のこの子はどうなのかしら、といたずら心に ペロリと舌を出した。
ちょい、ちょい。
水面を優しくつつくと、
輪を描くように何重にも揺れる。
すると、餌でも貰えるのかと思ったのか
ソレがパクパク口を開けて
アタシの目の前まできたの
「あっコラ!!!」
瑞樹が、ソレにちょっかいを出し始めたアタシをみて
叱ろうとしてきたけど もう遅いわ。
「っ…うわ〜…………」
ひらひらで、ドレスみたいで、
燃えるようなソレは
さっきまでの優雅な出で立ちが
まるで嘘のように
ビチビチと 冷たく跳ね上がった。
あたしの口の中で。
「ミミちゃ〜んッ!!!
…本当に食っちゃったのかよ…」
瑞樹は慌てた様子で、なにやら
携帯電話で調べたり電話したり忙しそう。
「えーっと、飼い猫が、はい、金魚を食べてしまって…はい…」
目を白黒させながら慌てふためく瑞樹を
滑稽に思いながら 私は足元で鳴いてみせてやる。
「にゃーん(あんなに真っ赤だったのに、
とっても冷たいソレだったわ)」
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