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季節は春。
4月10日。
確かに春先は会社も、色々と忙しい時期かもしれない。
でもそれと、これとは別の話じゃないの?…
今年は早いうちから暖かい日が続いているから、私は仕方なく毛布一枚とクッションを小さく畳む。
そのまま大きな袋に詰めて、電車で一人で1時間も掛けて新居へと向かった。
人との約束はちゃんと守らないと。
自分自身の信用に関わるから。
それに私は今は無職。
これから奥さんになるんだから、これくらいは一人でしっかりやりこなさないと。
もっと、しっかりしなきゃ。
新居先に到着すると、もう賃貸業者さんはアパートの前で待っていた。
「すいません、お待たせしました」
私は焦って、謝ると、
「あれ、世帯主さんは?もしかして一人で来たんですか?」
恥ずかしい…。
そんな事を言われて。
「ちょっと仕事が入っちゃったみたいで、私が責任持って鍵を頂きに来ました」
「そうなんですか」
そうだよね、そういう反応だよね、普通は。
「では、こちらを」
私は鍵を渡された。
「それから少々世帯主さんの方の書類で、2、3疑問点がありましたので、そちらはまた世帯主さんに直接お電話をしてお尋ねしますね」
疑問点?
そんないい加減な書き方して渡したの?あの人は…。
「はい、あの一体何が?」
私が不安な顔をしたからか、
「いや、身分証明書の件とお勤め先に関してです。しかし審査の方は通ってます。部屋は無事に借りれたので問題はないですよ」
「…はい」
「ここは、本当に静かな場所ですから。これからはゆっくりとこの土地に馴染んでいって下さいね、それでは」
「ありがとうございました」
賃貸業者さんの優しい言葉に、モヤモヤしていた心が少しだけ軽くなった。
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