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確かに静かだ。
主道から一本奥に入っただけなのに、こんなに静か。
その後、ガスの立ち合いも終わり、近くのスーパーでお弁当を買って、一人で新居で夕飯を食べる。
あれから、悟からはメールも電話もない。
本当に悪いと思っているのか。
一緒に早く住みたいと言ったのは彼なのに。
結婚もしたいと言ったのも彼なのに。
正直、家を探しはじめた頃あたりから、急にあの人の心が分からなくなり始めていた。
一度、他の物件で新居として決めたが、そこも勝手にキャンセルしたり、土日の休みも仕事だからと言われたり、重要な事を決めようとすると、急に会えないと言われたり。
悟の両親に会った時も、全く私の事を説明してくれていなくて、自分の仕事の話ばかり自慢していた。
私はあの時もほとんど、悟の親からの一方的な質問をひたすら答えていただけだった。
私の良い所も悪い所も、何も言ってくれなかった。
帰る途中に悟が私に言った言葉が、今でも焼き付くように印象に残っている。
「うちの家では唯一の女性である母親が、一番偉い立場だから、とにかく母には絶対逆らわない事」
気疲れしていて、その時は聞き流していたが、どうやらとても面倒で怖がられている母親なのだろう。
脅しというか、丁重に大切に接して欲しいと言われた感じがした。
なんだかもう、訳が分からなくなる。
これでいいのか?と思う事がまた一つ増えた気がした。
この先、大丈夫か…私は。
そう思ったら、不安が襲ってきて涙が込み上げる。
「なんで、私一人だけで引っ越ししてるの?…」
虚しさで、心が締め付けられて、そのまま夜になっても、ずっと一人で泣いていた。
ポタポタと真新しい畳に涙の雫が音を立てて落ちる。
夜も静かで、私のすすり泣く声が部屋中に響いていた。
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