1INPUT→たった一人で新居へ

3/7
前へ
/116ページ
次へ
確かに静かだ。 主道から一本奥に入っただけなのに、こんなに静か。 その後、ガスの立ち合いも終わり、近くのスーパーでお弁当を買って、一人で新居で夕飯を食べる。 あれから、悟からはメールも電話もない。 本当に悪いと思っているのか。 一緒に早く住みたいと言ったのは彼なのに。 結婚もしたいと言ったのも彼なのに。 正直、家を探しはじめた頃あたりから、急にあの人の心が分からなくなり始めていた。 一度、他の物件で新居として決めたが、そこも勝手にキャンセルしたり、土日の休みも仕事だからと言われたり、重要な事を決めようとすると、急に会えないと言われたり。 悟の両親に会った時も、全く私の事を説明してくれていなくて、自分の仕事の話ばかり自慢していた。 私はあの時もほとんど、悟の親からの一方的な質問をひたすら答えていただけだった。 私の良い所も悪い所も、何も言ってくれなかった。 帰る途中に悟が私に言った言葉が、今でも焼き付くように印象に残っている。 「うちの家では唯一の女性である母親が、一番偉い立場だから、とにかく母には絶対逆らわない事」 気疲れしていて、その時は聞き流していたが、どうやらとても面倒で怖がられている母親なのだろう。 脅しというか、丁重に大切に接して欲しいと言われた感じがした。 なんだかもう、訳が分からなくなる。 これでいいのか?と思う事がまた一つ増えた気がした。 この先、大丈夫か…私は。 そう思ったら、不安が襲ってきて涙が込み上げる。 「なんで、私一人だけで引っ越ししてるの?…」 虚しさで、心が締め付けられて、そのまま夜になっても、ずっと一人で泣いていた。 ポタポタと真新しい畳に涙の雫が音を立てて落ちる。 夜も静かで、私のすすり泣く声が部屋中に響いていた。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加