人間電子レンジ

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―最近主人が冷たいー 天野家。 結婚して20年がたつ。子供二人を育てて、一人は独立して。もう一人は偏差値の高い高校に通うことができるまで二人で一生懸命に頑張った。 20年前のプロポーズはあなたからだったのに、、あの時の一言は今でも忘れられないわ。 ああ、 旅行で一流ホテルに泊まった時ね、私その日誕生日だったのディナーの時間だったわ、小さな丸いテーブルで食事を楽しんでいる時。 ブチっっ。 電気が消えたの、何事かと思ったら大きな大きなケーキが運ばれて、 きれいな蝋燭が4本目の前に現れて私を照らしてくれたのもう感激! さらによ! 「ハッピーバースデー、トゥーユー、ハッピーバースデー、トゥーユー」 主人と従業員さんだけではなく、お客さんまで手拍子しながら歌ってくれたの! ほんとにすごい。こんなサプライズ生まれて初めて!! 歌が終わった後、震えた声で主人は言ったの。 「僕と結婚して素敵な家庭を育みましょう!」って。キャー(感激の声) 頑張って働いたお金で買った、指輪。 緊張でぶるぶる震えている。手がとてもかわいかったわ。。 あー。あの頃に戻りたい。 ―最近主人が冷たい、ー 朝早く起きて、高校に通っている息子の弁当と主人用の朝ごはんを作ったとしても 主人は 「ごめん、最近仕事が忙しくて食えないや」 とカバンをもって玄関から走って出て行ってしまう。。ネクタイもろくに結んでいないし。 せめて、パンぐらいかじって出て行って欲しいわ。 残った朝ご飯を一人寂しく頬張る日々が続いています。 ―最近主人が冷たい、、 家に帰って仕事の疲れを癒すためのビールをぐびぐび飲む主人。 私お酒は嫌いなのよ。匂いがきついし。 けど、仕事頑張って家族のこと養っているんだと思うと感謝はしないとね。 飲んで爽快になっている主人も少し可愛いけどね。 けど、問題はここからなのよ。 主人はよくテレビを見ながらお酒を飲むの。 そして可愛い女優さんが登場すると、思春期の息子と一緒に盛り上がっているの。 男のノリは本当に分からない。話の内容もひどい下ネタ入っているし、下品なエロおやじね。 息子も息子よ、偏差値高い高校に通っているのに頭の中はエロでいっぱいですかーー?? 40過ぎたおばさんだけど、時々でいいから 「可愛い」 「綺麗」とか言って欲しいわ。 最後に言われたのいつだったかしら? ―最近主人が冷たい。。ー 一緒に寝る回数も減ったし、主人の機嫌がいい日には私からお願いして一緒に寝る時が多々あるんだけど、いつも私の独り言が続いているだけ。。 どんな話をしても 「ふーん」 「そうか。」 「よかったね。」 と三つの単語を繰り返すだけ。しかも機械と喋っているかのような棒読みの返しが続いていつも心がえぐられている。 私の話に興味ないのかな。 私ってそんなに魅力的ではないのかな。 私といると楽しくないのかな。 私といると退屈なのかな。 もう年だからかな。 私が面白くないからかな。 外見が好みではないのかしら。 メイクの仕方を変えてみたらどうかしら。 そしたら、主人から話しかけてくれる場面が出てくるかもしれない。 ああ。 今度の夕食はすき焼きにしよう。 そしたら少しは機嫌よくなるかな。 肉はいつもよりお高い肉を買って、主人のすきなウインナーでも入れてみよう。 なんだか楽しみになってきたわ、明日も頑張らないと、、 ―女は主人に依存していた、好きなものには一途でどっぷりハマってしまうストーカー気質をもつ女なのだ。 その性格は昔から変わっていなくて高校の頃に初めて付き合った男がいたのだが 「重すぎる」っとフラれてしまった経験がある。 そんな女も今は男と結婚し、二人の子供に恵まれて幸せな生活を送れることができた。 しかし、最近は妙に主人が冷たいのだ。 もう女は限界だった。。 そんな女の運命を大きく変える製品がでてくるのはもう少し後のお話である。 ―翌日― 昔から仲のいいママ友といつも通っているファミレスでお食事することになった。 子供の話、主人の話、世間の話。 話し出したら止まらない。止まらないのだ。 息子から、「話が長い」とよく言われるのだがなんでだろうといつも疑問に思う。 しかし、今日分かった。 年をとるからだと思う。年をとると楽しい時間に限りがあるからだ。 家に居ても料理や洗濯するのにも、一人。 早朝の仕事から帰っても    一人。 スーパーで買い物しても     一人。 家で録画していたテレビ番組を見ても    一人。 一人。 一人。 一人。 一人。 年をとっても孤独でいることは寂しい。友達と話すことが雄一の楽しみ方。 だから、ずっと話している。 最近引っ越しに来た、相馬君ママが1時間遅刻して入店した。 相馬君ママ。。 彼女は32歳にして去年結婚して子供を産んだ。 しかも双子!!写真を見せてくれたら あら!天使のようなお顔をされていて! ペアルックなんてしていてスゴイ可愛かった! あー。私ももう一人欲しい。。 しかもご主人が彼女にデレデレの甘えん坊さんのようで、毎日一緒の布団で寝て起きて 朝ごはんも晩御飯も一緒な生活を送っているらしく 私とは真反対の幸せの生活を送っていて羨ましいと思う反面、どこか憎たらしいと思うばかりである。 「相馬君ママ、また主人といちゃラブですかーーー??」 先輩ママが後輩ママを優しくいじる。私たちの関係ではよくあることだ。 新入りをいじる。サラリーマンの飲み会のようだな。 他のママたちが笑う。話で盛り上がっていた場所が笑いによってさらに騒がしさを増して とても暑苦しい。でも楽しい。 なんだが、昔の大学時代で馬鹿みたいに飲んで騒いだ日みたい。 「いやー、違いますよ。 マンションのお隣さんからちょっと興味深い話を聞いてしまいまして、、」 ! 全員が相馬君ママに視線を向ける。 あたかも餌を欲しがる犬のペットのように相馬君ママの視線をむけ 相馬君ママは戸惑いの顔を私に見せた。 なんだか、救いの眼をしておる。私に顔を向けたところでこの人たちを統括する権力なんて私にはない、周りを仕切る能力も、周りから尊敬される人柄も私にはない。 「どんな話なの??」 私は救いの眼を気にしないで周りのみんなが思っていることを口にした。 相馬君がいけないよ、遅刻はするし、自分から話が大好きなおばさんたちに興味を持たせるような言い方をするほうがいけいないのよ、私は悪くないよ。 今日は仕方ない、相馬君ママには申し訳ないが犠牲になってもらおう 相馬君ママとはよく一緒にいることが多く、彼女は後輩のくせにして 私にため口で接してくるのだ。 後輩からのため口は昔からよくあった話だから特に気にしていることはないけれど 何だか、なめられている気がする。他のママ友にはちゃんとした敬語で接しているのに。 私の弱い性格が悪いのか、はたまた、彼女が自分よりも劣っている人間に対しては見下すような態度をとり、自分よりは優れている人間に対しては慎重に、真面目態度をとるような そんな腹黒い人なのかと毎度思うことがある。 彼女は小さく一息はいた。 「実は、人間電子レンジというものがあるんですよ。」 ??? 周りの反応は上記の通り?の文字でいっぱいになる。 「それってどういうものなの?」 「あくまで噂なので鵜呑みにしないほうがいいと思います。 えーと、主人が冷たくなったという人が最近増えたらしくて、例えば夜の相手をしてくれなかったり、全然口を聞いてくれなかったり。 そんな問題を解決するために主人をその電子レンジに入れて数分温めるんですよ。 そうすると、いきなり甘えてきたり、胸とか揉んでキスを要求したり まるで別人に生まれ変わるようになるんですよ。 まぁ、私の主人には必要ないことなんですけどね」 最後の一言はいらないだろ。私は心の中でつぶやいた。 「そんな近未来で恐ろしい機械なんか売ってるわけないわよ!!」 ワハハと場内が笑いで埋め尽くされた。 面白おかしく机をバンバン叩いている人もいた。 先ほどより、騒がしい。周りのお客さんが冷たい視線を送るにも笑い声は止まらず 店員さんに注意されてようやく落ち着くようになった。 ママ友たちはそんな近未来で恐ろしい商品の存在を否定していたが 私は違った。 欲しい!! その商品とても欲しい! これならまた甘えん坊の主人が戻ってくれるかもしれない。 これしかチャンスはない! 私は喝を入れるために机の水を一気に喉の奥まで流し込んだ。 ―数日後― 人間電子レンジが家に届いた。 ネットで検索するとダークウェブにつながるサイトに飛んで 名前と住所、携帯電話、クレジットカードの番号を入力すれば簡単に購入できた。 いかにも怪しそうな雰囲気を出しているが、私は早くこの商品が手に入れたくてうずうずしそれどころではなかった 高さは170センチメートル 横幅は2メートル30センチメートル 奇跡的に置き場は確保できた、延長コードも届きそうだ。 スイッチがあり、左から 500ワット、1000ワット、1900ワットと記されていた。 注意書きを確認する。 ※注意 過度の使用には十分注意をしてください。 理性が崩壊し暴れてしまう恐れがありますが当社では責任を一切取りません。 最低一週間に二、三回最大の1900ワットの使用をお勧めしています。 ※注意 効果は個人差によりますが 500ワット→二日三日ほど 1000ワット→一週間ほど 1900ワット→二週間~一か月ほど。 が目安です。過度の使用により、効果が薄れていく恐れがあるためご使用の際は頻度とワット数を確認してからお願いします。 返品などの申し込みは電話にていつでもご連絡ください。 〇〇〇―〇〇〇〇-〇〇〇〇 など、具体的な注意事項を記されていた。 取扱説明書には、掃除の仕方、効率よく使用するための秘術、うまくいかなかった場合の解決策など取扱説明書にしては丁寧で具体的な作りになっていて驚いた。 ダークウェブで購入したので不良品かつ怪しいものだったらと届くまで不安だったが 安心して使用することができるだろう。 そんな自信がわいた。 さて、これからどうやって主人を入れようか。 まずは、簡単な手口で誘ってみるとしようか。 ―夕方― 鍵を開ける音がした。 主人が帰ってきた。 私は絶句した。 主人の顔がいつもより青ざめている。 「どうしたの?」 「ああ、いや。最近仕事が忙しくて休み暇もないんだよ、ミスもよくするし。。」 死んだ顔をしたまま私を見る。まるで別人に生まれ変わったかのような顔で 私は暖房もつけて暖かいリビング内でも、全身から鳥肌が立った。 「それより、これは何だ。」 声のカスレから分かる精神的、肉体的な疲労、仕事のストレス 「これはリラックス効果のある人間電子レンジっていうやつよ、最近すごく流行っていてね、特に仕事帰りで疲れている社会人、勉強に追われストレスが溜まりまくっている受験生にピッタリらしいのよ、早朝の仕事も増えて一括で買ってしまったわ」 「、、、」 主人は黙って人間電子レンジの様子をじろじろと眺める 「よかったら、使ってみる?」 「、、ほんとに効果があるなら乗ってみようかな」 主人は少し頭を悩ませて使うことを決心した。 「よっしゃゃゃゃゃーーー!!」 と叫びたい気持ちを抑えて主人の背中を押して椅子に座らせ500ワットのスイッチを押した。 音は意外にも静かで家で使っている電子レンジの音よりも小さかった。 電子レンジ内のライトは暖かいオレンジ色で見ているこっちもリラックスできる。 三分間のタイマーが一秒一秒進んでいく。私も一緒のタイミングでカウントする。 一分間半が経過した。 急に変な汗が全身に出てきた。緊張と不安のせいである。 もしも、これで失敗したらもう次はないのかもしれない。 もう、主人から愛されない。主人が朝ごはんを食べてくれない。 主人が一緒に寝てくれない。主人が「頑張ったね」っと褒めてくれない。 主人が行ってきますと言わない。 主人がおかえりなさい、に返答してくれない。 離婚するかもしれない。そして息子も離れ離れで私がまた一人。 一人はもう嫌だ。もう嫌なの! だからお願いします。 私は両手を合わせて念じた。もう神様にしか頼ることができなかった。必死で祈りを捧げると同時にタイマーの数が三つともゼロになる。 オレンジのライトが消え主人が椅子に立ち上がって出てきた。 ごくっ 私は緊張のあまり固唾を飲み込む。 昨日と変わらず、冷たい主人のままなのだろうか、 逆に急にキスとか求めてきて私を脱がせて襲ってくるのではないか、 それは本望だが。何だか不安で心がいっぱいな自分がいた。 人間を電子レンジに入れるだけで変わるのだろうか、テレビの番組でさえ取り扱っていないしやはり、都市伝説みたいなものなんだろうか。 そう思った。 その時、 ぎゅ。 何だか暖かくて懐かしい感触、私の胴体を包んだ腕は昔に比べてやや細く筋肉が衰えている証拠である。まったく、ちゃんと一日三食食べているのか?朝ごはんも食べる時間ないのかな、そしたら私がもっと早くおき、、て、、 あれ。 私、今、主人にハグされている?? ふと我に戻った瞬間、慌てふためいた表情で頬を赤らめた。 嬉しさよりも驚きのほうが勝っているような気がした。 まさか、こんな結果が起こるなんて思いもしなかった。 「ありがとう、、」 私の耳元で主人が小さく呟いた。 「よーーーし、明日の仕事も頑張るぞ!!」 主人は大きな伸びをして、スーツのジャケットを脱ぎ捨て風呂場へ走って駆け出して行った。 まるで泥遊びで汚れて帰ってきた子供が無我夢中で風呂場に駆け込むそんな様子だった。 私は全身の筋肉が緩んで崩れ落ちてしまった。 すぐに涙がこぼれた。 大きな丸い一粒が床にポロポロ落ちていく。 息をするのが苦しい。 涙をこぼすたびに息がだんだん苦しくなって過呼吸になるんじゃないかと思ったが 嬉しかった。 いきなりハグされてありがとうの言葉をもらう。 とても懐かしい。 まだ、子供も生まれてない頃に主人が仕事の疲れで帰った時 もう夜の10時頃だったが、私はご飯も食べずに主人の帰りを待っていた。 テーブルの上に置いていた 生姜焼き。 まだ、料理に慣れてない私が作った生姜焼き。 主人は美味しいと言ってくれるのだろうか。不安な気持ちで電子レンジに入れて温めた。 主人が大きな一口で肉を口に入れた。 スーパーで買った安い肉を使用していたため嚙み切れるのに時間がかかる。 うちにはお金がそんなにあるわけではないし、何だか申し訳ない気持ちであったが。 主人は泣いていた。安い肉を噛みながら泣いていた。 そして、私の服をぎゅっとつかんで「ありがとう。」っと小さく呟いた。 その声は涙のせいで濡れていて少し声帯が波のように揺れていたがしっかり聞き取れた。 私は泣き止まない子供を母親のように優しく頭を撫でであやした。 「頑張ったね」 一言私は放つと主人は先ほどよりも激しく泣いた。 褒められるのに弱い人なんだろう。母親から見放されて育った私と似ている部分がある。 この人を支えよう。一生支えよう。 私と同じ弱い人だから、弱い者同士頑張って生きていこう。 そして幸せな時間を過ごしていくんだ。 ようやく涙が落ち着いてきた。 キッチンのタオル掛けに掛けているタオルで床を拭く。 いい年になって私は何を泣いているんだ。 子供用に風呂場へ駆け出した主人が脱ぎ捨てたジャケットを目にする。 「全く、昔の息子たちみたいじゃない。。」 ジャケットを手に取り、匂いを嗅いだ。 私の嫌いなタバコの苦くてまずい匂いがした。 しかし、私の好きな主人の暖かくて優しい匂いも少ししてまた涙がこぼれそうになった。 「今日だけ、今日だけはもっと泣いていいかな。。」 ―現在、科学の進歩により生活に影響を及ぼすほどのものが生まれている。 自動運転システムを搭載した車、AI、音声認識システム。 これからも科学の進歩は発展していくだろう。 そうしてこの人の冷たい心を温めてくれる「人間電子レンジ」も世に出回ってくるかもしれない。 その時、あなたは科学の力に頼りますか? それとも自分の力で解決しますか?―
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