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思春期に育まれるという感情の詳細を、大人は誰も教えてはくれない。だから、木嶋翔太は『彼氏』という役割を担っているにもかかわらず、言動が不完全だった。
高校二年目の初夏。期末テストを終えた木嶋は、クラスメイトの柳瀬未来と長谷川樹と話に花を咲かせている。多大な知識を詰め込んだ脳を休ませるかのように、三人は次から次へと話題を変え、会話を弾ませていた。
筑西高校では、期末テスト一週間前からテスト最終日まで、部活動は原則禁止になっている。木嶋と長谷川は陸上部に、柳瀬は家庭科クラブに所属しているが、その規則のせいで暇を持て余していた。
空調が切られた教室内では、じんわりと汗がにじむ。下敷きをうちわ代わりに、三人は下校時刻を告げるアナウンスが流れるまで、ずっと語り合っていた。
しばらくして、下校を促す放送が聞こえる。三人はまだ話し足りないようで、高校のすぐそばにある公園へと移動する。公園では、帰路に就く親子と入れ違いになった。
夕日が辺り一面を橙色に染め上げている。公園を訪れたのはいつが最後だったか。三人は口をそろえて「懐かしい」というと、ブランコへと足を向けた。
「小さい頃さ、ブランコからどこまで靴が飛ばせるか、みたいなゲームが流行ったよな」
「そんなのよく覚えてるな」
長谷川が鞄を下ろして、ブランコを漕ぎ始める。木嶋はそれに続いた。
「それやってたの、男子だけだったよ」
クスクスと柳瀬が笑う。彼女は遊具をベンチ代わりにしていた。
童心に帰った三人は、互いの小学生時代の話を始めた。長谷川は、中学入学前に筑西高校校区に引っ越してきたという。それまでは、県外で過ごしていたため、小学生独自の文化が木嶋たちとは異なっていた。
例えば、『神様の言う通り』の最後の文句が違ったり、警察と泥棒に分かれるゲームをケイドロというかドロケイというかの違いだったり。
高校に入って聞かれる過去は、中学生までの記憶についてだった。だから、小学生のときの長谷川を木嶋と柳瀬は初めて知った。違う県の給食事情を聞いた時には、木嶋の腹が鳴ってしまった。
木嶋と柳瀬は、小学校から高校まで同じ学校に通っていた。同じクラスになったことは数えきれないくらいある。高校でも、たまたま同じ進路選択をしたため、二年連続でクラスメイトになっている。
その話を聞いた長谷川は、興味深いものを見つけた子供のような目で二人を見つめた。
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