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「翔太と柳瀬は幼馴染ってやつなんだな」
「そういうことになるのか?」
「なんだよそれ」
「だって、別に家が近いわけじゃないんだよ。木嶋くんは筑西三丁目に住んでるけど、私は高校進学を機に隣の市に引っ越したんだもん」
「だけどさ、小さい頃から一緒にいるのを幼馴染って言うんじゃないのか?」
木嶋と柳瀬は「さあ」と言って、肩をすくめた。まるで兄妹のように息が合った動作だった。
「漫画とか小説とかだと、幼馴染って家が隣同士だったりお互いの家を行き来してたりするよね」
ブランコを一生懸命漕いでいる男性陣に向かって、柳瀬が語り掛けた。
「家族ぐるみで仲がいいってイメージがあるな」
「え? 翔太んとこと、柳瀬んとこ、両親が仲悪いの?」
驚いた顔を見せる長谷川に、木嶋は苦笑して答える。
「なんでそうなっちゃうんだよ」
「長谷川くん、考え方が極端すぎ」
木嶋につられて柳瀬も笑った。二人の笑い方は、とても良く似ていた。
「俺の両親と柳瀬の両親ってあんまりかかわりがないだけだよ。母親同士は授業参観とかで顔あわせることが多いだろうけど、父親は多分、会ったことがないんじゃないかな」
「じゃあ、家族ぐるみで旅行とかは?」
「ないない」
幼馴染という幻想を打ち砕かれたのか、長谷川は変な声を上げてへこんだ。それが可笑しかったのか、また木嶋と柳瀬は同じように笑い始める。
それをまじまじと見た長谷川は、ブランコを漕ぐのを止める。二人を交互に見やると、不思議そうな顔をした。
「なあ。なんで翔太と柳瀬は付き合わねえの?」
「は!?」
「え!?」
唐突な言葉に、二人はすっとんきょうな声を上げた。ぎこちなく首を動かし、木嶋と柳瀬は顔を見合わせる。今まで言われたことがない言葉だったため、どう返事をしていいか分からなかった。
木嶋は長谷川に目をやった。同じ部活に所属していて、一年生の頃からよく話す間柄ではあったが、彼は冗談を言うことは一切なかった。そんな長谷川が、からかい目的で「付き合わないのか?」と口にするなんて、考えられなかった。
長谷川が本気で疑問視していることを悟ると、木嶋の心臓は急に駆け足になっていく。今の交友関係の中で、柳瀬ほど長く付き合いがある女子はいなかった。同じ中学だった女子も、高校になってはほとんど関わることがなくなっている。別の高校に行った子も、一年生の冬休みくらいまでは連絡を取ったり、遊びに行ったりしていたが、今ではなんらかかわりがない。
奇妙な縁で、木嶋は柳瀬と二年連続で同じクラスになっている。教室の中でも、同じグループに入って談笑することはよくあった。常に、というわけではないが、木嶋は柳瀬と一緒に行動することがある。傍から見れば、恋人と見紛うものだったのだろうか。
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