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あれ?
私は思わず首を傾げた。
学食でハンバーグを頬張る私は、隣のテーブルの男性から目を離せない。
ハンバーグを食べているあの男性には見覚えがある。
身長は高くなってるけど、あれは……
私は、食事中にもかかわらず、思わず立ち上がって彼の向かいの席に手を掛けた。
「あの、違ったらごめんなさい。
もしかして、貴裕くん?」
彼は、驚いたように視線を上げ、私をまじまじと見つめた。
「侑……李さん?」
私の名をそう呼んでくれた瞬間、疑いは確信に変わった。
「やっぱり! 久しぶり! 元気だった?」
貴裕くんは、小学生の頃の同級生。
6年生の12月に家庭の事情で突然転校して以来の再会だった。
私は、即座に隣のテーブルから、私のトレイを貴裕くんの前に移す。
けれど、貴裕くんは、私に一瞥をくれたのみで、また無言で食事を始めた。
「私ね、外国語学部の英語学科なんだけど、貴裕くんは?」
私は構わずに話しかける。
一瞬、手を止めた貴裕くんは、視線を上げることなくぼそっと答えた。
「医学部」
えっ?
普通の元気な少年だった貴裕くんには、決して頭がいいイメージはない。
むしろ、宿題を忘れて怒られてるイメージの方が強かった。
「すごい! 貴裕くん、頑張ったんだね!」
うちは、国立大学の中ではそれほど偏差値が高いわけではないけど、それでも医学部なんて、私にはとても手が届かない。
「私ね、駅の向こう側の学生マンションに住んでるの。貴裕くんは? 一人暮らし?」
ちょうど食べ終えた貴裕くんは、カタンと箸を置いた。
「母と」
聞こえるか聞こえないかという小さな声でボソッと答えると、貴裕くんはそのまま立ち上がる。
「あ、貴裕くん?」
呼びかける私にまるで気づかないように、そのまま自分のトレイを持ち、踵を返して背を向けると、返却場所へと歩いて行った。
貴裕くん、どうしたの?
声をかけたの、迷惑だった?
小学生の頃、あんなに元気で人懐っこかった貴裕くん。
なんでこんなに冷たい態度を取るんだろう?
私はわけが分からなくて、呆然と学食から出て行く彼を見送っていた。
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