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医務室では、応急手当として、湿布を貼ってもらったものの、骨折の可能性も否定できないからと、医学部の病院への紹介状を書いてもらい、車椅子を貸してもらった。
貴裕くんは、当然のように私の後ろに立ち、車椅子を押そうとするので、
「貴裕くん、大丈夫! 車椅子ならちゃんと一人で行けるから」
と慌てて声を掛けるけれど……
「次は森本先生の英語だから、堂々とサボらせろよ」
という返事が返ってきた。
まぁ、森本先生の英語は、催眠術と呼ばれるほど、ほぼ全員が寝てしまう退屈な講義。
気持ちは分からなくもない。
「でも……」
なおも、私が渋ると、
「大丈夫。万が一、英語落としたら、侑李さんに教えてもらうから」
と、本気とも冗談ともつかない返事が返ってきた。
「えっ……」
判断がつかなくて、なんて返していいか分からず、戸惑ってしまう。
「英語、侑李さん、得意なんだろ?」
貴裕くん、私が英語学科って覚えてたんだ!
いつも話しかけても無視されてると思ってたから、なんだかとっても嬉しい。
「うん! 英語なら任せて!」
私は、小学校に上がる前から英語を習ってたから、英語だけはできる。
私のその返事を聞くと、貴裕くんは、当然のように車椅子を押して、大学病院へと向かった。
そのままレントゲンなどに車椅子を押して付き合ってくれていたけれど、
「悪い、バイトの時間なんだ」
と、貴裕くんは申し訳なさそうにいう。
「うん、私は大丈夫だから、行って」
ここまで付き合ってくれただけで十分。
「結果、気になるから、連絡して」
そう言って貴裕くんは、スマホを取り出した。
携帯、教えてくれるの?
散々付きまとった私のこと、うざいとか思ってない?
そんなことを思いながらも、私も携帯を取り出し、連絡先を交換した。
検査の結果、幸い骨折はしておらず、ただの捻挫だと言われ、松葉杖を借りて帰宅した。
貴裕くんに報告したいけど、まだバイト中かな?
そう思った私は、通話ではなくメッセージを送ることにした。
『アルバイトお疲れ様!
今日はいろいろとありがとう!
検査の結果、骨折ではなく捻挫でした。
しばらくは松葉杖での生活だけど、
貴裕くんが階段で助けてくれたおかげで
大事に至らずに済みました。
本当にありがとう!!』
その後で、花束を抱えたくまが『ありがと』と言っているスタンプを添えた。
そして、その日の深夜0時を回ってから、
『お大事に』
というごく短いメッセージが届いた。
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