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「幸花」
「なに?」
いつもとは違う、真剣な声。
少し緊張しながら次の言葉を待つ。
「おれぁ、もう此処を出ようと思う」
「え、、どうして」
突然のことに驚きが隠せない。
今までそんな素振りは無かったのに。
「お前はもう、大丈夫だ」
田中さんの、真っ直ぐな目。
「もう、一人でもやっていける」
「そんなこと、」
いいかけて、やめた。
本来はこんなに長く一緒にいる方がおかしいのだ。
「田中さんは、どうして私と一緒に居てくれたの?」
「実は、あの日より前からおれぁここに居たんだ」
「え゛?」
衝撃の告白である。知らないうちにもう既に同居してたとは。
「お前の笑顔で元気をもらったんだ」
「……」
「その笑顔が消えて、あの日お前が酷く落ち込んでいたのを見た時いてもたってもいられなくなってな」
懐かしむように話す田中さんに、私もあの日を思い出す。
「気づいたら声をかけていた」
涙が出そうだ。
いつもぐーたらしている姿を見ていたから、こんなに真剣に私を想っていてくれたなんて。
すると、田中さんがばっと顔を上げた。
「お前は、笑っていろ!」
笑顔で言う。
「名前の通り、幸せの花を咲かせてくれや」
満足そうに笑って出ていった。
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