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 右田(みぎた)氏について話しをしよう。  右田氏の話しをするには、私は過去を思い出さなければならない。  右田氏は私の上に存在する人物だった。  上司であるとか、そういう意味では無い。  この世に階級社会が存続していたとするなら、私は右田氏よりも(くらい)が低いということだ。  別に右田氏がそういうことを言ったわけではなく、私が勝手にそう位置付けていただけなのだが。  さて、私の足元には右田氏の死体がある。  頭から血と脳みそを垂れ流している。  血は顔を染め、床を染め、そして私の爪先を染めている。  私が手にしているのは、(おの)だ。  これにも血が付いている。  ぽたり、と落ちる。  右田氏は私を睨みつけるように死んでいる。  この世に恨みを残し、未練を残し、死んでいる。  右田氏と私が知り合ったのは、今から数年前のことだ。  その時の私は、23歳。  コンビニでバイトをしながら、生計を立てていた。  いわゆるフリーターだ。  右田氏は、私が働いていたコンビニの先輩だった。  先輩といっても、私より数ヶ月先に働いていたという違いだった。
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