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 確かにそこに右田氏の名前があった。  受賞こそ逃していたが、選考委員からなかなかの評価を受けていた。  投稿者の出身地や最終学歴も右田氏のものと同じだった(実は後からこっそり事務所へ行き、右田氏の履歴書を拝見したのだ)。  私の心の混乱と悲しみはより本格的な痛みとなって私を襲った。  私はその日のバイトが終わると、すぐにパソコンを立ち上げ、小説を書いた。  あんな奴が最終選考に残れるのだから俺はきっと受賞できる、と自分に言い聞かせながら、ひたすらキーを叩き続けた。  何の根拠も無かったし、ただの(ねた)みだということも分かっていた。  けれど、叩かずにはいられなかった。  そういう感情こそが、凄い作品を生み出す力になるということもある。  それにしても、右田氏の顔がいつまでも頭から離れなかった。  私はいつの間にか、キーを叩きながら歯を食いしばっていた。  口の中で血の味がして、鏡で覗くと、歯茎から血が滲んでいた。  さすがに笑った。  私はなにを熱くなっているんだ、と頭を冷やそうとした。  けれど、駄目だった。  右田氏の顔が、あの自慢顔がどうしても浮かんでくるのだ。
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