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 私はまたパソコンの前に座り、キーを叩いた。  途中から自分でも何を書いているか分からなくなってきた。  それでも物語を完結させることが、その時の私の使命だった。  その日は結局、物語を完結させることは出来なかった。  しかし、自分でも驚くくらいの文章を打ち込んでいた。  無機質な文字を目で追うと、なんだか開放された気分になった。  そして私は、そのままベッドで横になり眠りに就いたのだ。  翌日、その小説を読み返してみて、私はまたしても絶望した。  何の意味も無い、滅茶苦茶な文章がそこには並んでいたからだ。  なにが大傑作だ、と私は思った。  すぐに書いた文章を削除した。  そして、何をやってるんだ、と声を上げていた。  それから私はよく右田氏の話しを聞くようになった。  この人のどこに文章を書く力があるのだろう、と知りたくなったからだ。  知ったところでどうすることも出来ないし、また嫉妬心(しっとしん)が大きくなるのは分かっていたのだが、どうしても知りたかった。  右田氏は相変わらず仕事をサボった。  私は裏口へ向かう右田氏の後を追い、煙草に火を点けたその背中に声を掛けた。
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