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週6でバイトに入る僕の休日は火曜日だ。大学は夏休みに入っていてゆっくりとした火曜日を過ごせていた。部屋で寛ぎ、ただなんとなくTVを観ていた。
日はとっくに暮れたのに、いまだに開けた窓の向こう、セミの鳴き声がする。
と、不意にスマホが震えた。
表示されたのは、焼肉ダイニングエブリの番号だ。夜の8時半。この時間からシフトに入ってくれ、はないだろう。明日ロングシフトの依頼だろうか。
「もしもし、吉野です」
「おう、吉野。聞いたか?」
リーダーの古市さんの声だ。
「……何をですか?」
「やっぱ連絡いってないか。客がくだらないことしてさ、窓側のテーブル燃えたんだよ。火事だ、火事。収まったけど、明日休みだ」
「えぇ!?」
悪ノリしたお客様が網の上からジッポーの油を注いで騒いでいたらしい。古市リーダーが注意しても聞かず、ついには引火し燃え広がってしまった。幸い、お客様もバイト仲間も無事だったのだけは良かったが。
「明日だけですか?」
「今日の今日だから分かんないけど……。しばらく閉めるかもな」
結局この火事の改装は長引くこととなり
お店はしばらく休業となってしまった。お店は保険でどうにかなるらしいが、僕たちバイトの人間はしばし職を失った。
「どうする? 夏休みなのに暇すぎんぞ」
「せっかくみんなでボーリングでも行こうって言ってたのにね」
バイト仲間で組むLINEグループにそんなメッセージが流れ始めた。僕はぴこんぴこんと忙しなく鳴る音を数回聞いては画面を確認し、みんなの会話を何気なしに覗いていた。
「しばらく休みならさ、みんなでどっか行かね?」
「ボーリングとか?」
「いや、もうさ。どっか田舎に泊まり行くとか」
「門脇の実家は? 福岡で美味しいもの食べるとか」
「いいじゃん、それ」
そんな盛り上がりを僕は傍目で見ながら、佐賀に帰るのも良いなと思っていた。と、次々流れるメッセージに僕の名前があるのに気づいた。
「おーい、吉野、見てるか?」
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