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 へえ。  と、よく言われる。  僕の話には魅力がないのだ。  へえ、と言ってもらえるだけマシかもしれない。ふうん、よりはマシだ。  と、いつも僕は思っている。 「吉野ってさ」  食器洗いを終え、表玄関を施錠し、ふぅとひと息ついたところで声を掛けられた。 「ん? なに?」  外の空気を浴びると、むわりと衣服にこびりついた臭いが鼻をつく。やっと自分がニンニク人間なんだと分かる。焼肉屋で働く宿命だ。 「吉野って、なんていうか、ずっと地味よな」  バイトで同じシフトに入る門脇くんが当たり前のようにそう言った。 「まあ……うん。自分でもそう思う」  そう答えると、門脇くんは遠慮がちに鼻で笑った。 「東京来てんだからさ。吉野はもうちょいさ、はっちゃけようぜ」  門脇くんがそう言って、先に階段を降り始めた。階段下には他のバイト仲間二人が甲高い声で笑い合っていた。珍しくラストまで入っていた森口さんの笑顔が街灯に照らされていて綺麗に映った。  臭いを気にして、袖口をふと嗅いだ。その先に笑い合うみんなが見える。グレーで地味な僕の服とみんなの服の色が全く違うことに気づく。みんなの服は明るくて華々しくすらあった。 「吉野っ、はやくおいでー」 「あ、はい。ごめんなさい」  階段を駆け下りてみんなの輪に入った。コンクリートブロックみたいな僕と、色とりどりの花として咲いているみんな。そんな、劣等感をいつも抱く。  門脇くんは福岡からこの東京の大学へやってきた。一年経ってすっかり東京に溶けこんでいる。僕は、門脇くんが育った福岡の糸島市からわずか数キロしか離れていない、佐賀の唐津から東京にやってきた。  東京の大学に受かった時からずっとドキドキしていた。こんな地味な町で育った地味な僕が、東京でやっていけるだろうかと。今、こうして東京のノリにぽつりと佇んでいると尚更そう思う。
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